失敗事例

事例名称 タール状廃棄物の分解反応による暴走
代表図
事例発生日付 1973年05月10日
事例発生地 大分県 大分市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1973年に大分県の化学工場において、農薬製造のタール廃棄物が、温度上昇により貯槽内において自然分解を始めた。分解反応が暴走して、悪臭の強い分解ガスがマンホールのふたの隙間を通って、一気に噴出した。風下の住宅地域では、住民は一時避難し、急性咽頭炎などの症状を訴えたものが42人に上った。
事象 農薬製造のタール状廃棄物を貯槽に一時貯留している間に、ユーティリティの変動で温度が上がった。そのため、分解反応が暴走し、有毒ガスが発生し、漏洩した。 図2参照
プロセス 製造
単位工程 廃水・廃油処理
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
図4.単位工程フロー
反応 その他
化学反応式 図5.化学反応式1
物質 O,O'-ジメチルジチオリン酸ナトリウム(O,O'- dimethyl phosphorodithioate sodium salt)、図6
O,O'-ジメチルジチオリン酸二量体(O,O'- dimethyl phosphorodithioate dimer)、図7
事故の種類 漏洩、健康被害
経過 農薬製造時に生成するo,o'-ジメチルジチオリン酸ナトリウムを含む排水に、硫酸と過酸化水素を加え、上記物質をジメチルジチオリン酸二量体として分離後一時貯留する。その一時貯槽で、ジメチルジチオリン酸二量体が、急激な加水分解を起こし、硫化水素、メタノール、二硫化炭素、メチルメルカプタン、ジメチルチオエーテル、ジメチルジスルフィドなど、毒性の高い分解ガスを発生した。タール貯槽シールドラムのマンホールフランジから分解ガスを噴出し、悪臭をまき散らした。
原因 一時貯槽は冷却ジャケットと攪拌翼が装着された容器である。液温度を60℃に保つため、70℃の温水(スチームと工水を混合)をジャケットに通水していた。工水を他でも使用したためジャケット水温度が90℃まで上昇した。数バッチの廃液を溜める大きさの貯槽であったのと、まだ移送量が少なかったので、液面はジャケット部まで達していなかった。そのため、貯槽内壁温度も90℃まで上昇した。撹拌により90℃の内壁に接触したタール状物質は分解を始め、発熱した。温度がまだ上昇しないで密度の大きい部分は、撹拌による遠心力で壁面に押し付けられ、分解を開始した。全体的に徐々に分解反応が進行し、暴走に移行した。また一時貯槽への移送時、タール状物質を完全に送ったことを確認するため、水も一部送っている。その水が加水分解を起こし、反応を促進した。
知識化 1.工業的に大量の物質を取り扱う際、使用前に基礎実験を十分に行い、特有の危険性を把握する必要がある。
2.焼却予定の廃棄物についても、その特性を把握する必要がある。
3.ユーティリティーの変動は事故を引き起こすことがある。プロセス流体と同様な注意が必要である。
背景 1.ジャケット水の温度上昇により液温が上昇した。
 プロセスで使用する工水と作業用の工水を同じ配管から取り出し、ジャケット通水温度を上昇させた。設計の間違いである。運転側はこの工水配管のもつ危険性が理解できなかった。
2.この条件で分解反応が起こることが確認されていなかった。事故後の実験で初めて分かった。廃棄処理工程の反応危険の検討不足と考えられる。
データベース登録の
動機
自社開発装置における廃棄物の反応危険の解析が不十分だった例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、反応危険の見落し、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、他の装置の影響大、定常動作、不注意動作、流量不足、不良現象、化学現象、加水分解反応、二次災害、損壊、漏洩、身体的被害、発病、近隣42名が発病
情報源 北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.256-260
高圧ガス保安協会、コンビナート事故事例集(1991)、p.219-220
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.175
負傷者数 42
マルチメディアファイル 図2.タール貯槽図
図6.化学式
図7.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)