失敗事例

事例名称 JAL機新千歳無許可滑走
代表図
事例発生日付 2008年02月16日
事例発生地 北海道 千歳市
事例発生場所 新千歳空港
事例概要 2008年2月16日、新千歳空港は降雪のため低視程の気象状態であった。10時33分、日本航空502便が管制官からの離陸許可がないまま離陸滑走を開始した。視界のさえぎられた前方には着陸したばかりの他機がまだ滑走路で走行中であった。管制官からの指示で日本航空502便はその他機の手前1800mで停止、衝突という最悪の事態は免れた。
事象 日本航空502便(ボーイング式747-400D型機)は、2008年2月16日、新千歳空港からの離陸に向けて誘導路で待機していた。一方、日本航空2503便(ダグラス式MD-90-30型機)は、関西国際空港より10時29分に新千歳空港に着陸した。その後、同便が着陸して滑走路を走行中、日本航空502便は管制官からの指示により滑走路に入り待機していた。10時33分、日本航空502便は管制官からの離陸許可がないまま離陸滑走を開始した。管制官は日本航空502便に離陸滑走の停止を指示し、同機は停止した。最終的に両機は1800mまで接近していた。日本航空502便には、乗務員18名、乗客428名の計446名が、日本航空2503便には、乗務員5名、乗客121名の計126名が搭乗していたが、両便とも負傷者はなかった。
経過 日本航空502便は機体の除雪作業のため出発が約40分遅れ、9時54分、滑走路に向け地上走行を開始した。操縦は指導教官である機長のもとで訓練生が担当していた。降雪のため視界が悪く視程は400mであった。他機の着陸後、管制官の指示により滑走路に入り、端で待機した。管制官より「JAPAN AIR 502, EXPECT IMMEDIATE TAKEOFF,TRAFFIC LANDING ROLL AND INBOUND TRAFFIC 6 MILES(日本航空502便、ただちに離陸できるよう準備せよ、着陸した航空機はまだ滑走路にあり、後ろには到着機が6海里(11.1km)まで接近してきている)」と参考情報が入った。「TAKEOFF」という言葉は通常、実際に離陸するときにのみ使われが、運航乗務員は離陸許可がでたものと思い込み、離陸滑走を開始した。なお、このとき運航乗務員は規定に反し管制官からの指示を全文復唱することなく「ROGER(了解)」と返答したのみであった。
原因 「IMMEDIATE TAKE-OFF」を含む情報を管制官が通報したため、日本航空502便の機長が「迅速な離陸の指示」を受けたものと錯誤したことが直接の原因である。その他、次の各要因が間接的な原因と考えられる。
(1) 日本航空502便が降雪の中で離陸許可を待っている際に、低視程の気象状態で、滑走路上の他機を視認できなかった。
(2) 機体の除雪作業で出発が遅れ、できる限り定時運航に近づけたい日本航空502便の機長は、早く離陸したいという「『気』に囲まれている心理状態」にあった。
対処 日本航空では路線訓練(実際の定期便で、訓練生が指導教官のもとで操縦する訓練)を2008年3月6日に一時中止した。
対策 1 航空自衛隊千歳管制隊の対応
「TAKE-OFF」の用語を離陸許可及びその取り消し以外に通常使用しない旨が保安管制業務処理規程に記載されていなかったことから、再発防止のため、これらの用語を適切に使用するよう全管制隊員に周知した。
2 日本航空の対応
航空管制官からの指示の復唱徹底などを全運航乗務員に通達した。路線訓練に同乗する副操縦士は、操縦席の訓練生の通信をモニタし、必要に応じて通信を引き継ぐこととした。
知識化 運航乗務員は定時運航できるようにしたいという意識が常に心の中にある。それが「聞きたいものが聞こえる、見たくないものは見えない」ということが起きる。どんなに気をつけてもこういう心理状態になりがちであり、誰もがそのような立場に置かれたときそういう意識を持ってしまうことを自覚するべきである。
背景 2005年1月22日に日本航空1036便による同様の誤発進が同じ新千歳空港で発生した。当時、対策として管制官の指示内容の復唱および機長と副操縦士が、指示内容を相互に確認しあう手順をマニュアルに規定した。それにも関わらず同様の事象が発生したということは、マニュアルの整備では根本的な解決策にならないということが露呈した事象となった。
後日談 この事象の直後である2008年3月4日、小松空港で同様の事象が再発した。根本的な再発防止策を早期に講ずるべきである。
当事者ヒアリング 機長談:「ある程度時間が経った時に、「IMMEDIATE TAKE-OFF」「TRAFFIC 5(又は)6 DME」と聞き取れて、訓練生は「ROGER」と言ったと思う。私は離陸許可をもらったと確信していた。「IMMEDIATE」は急迫した状態があるのだと思い、訓練生が「ROGER」とだけ返答したことに対する指導より離陸の優先度が高いと判断した。」
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、組織運営不良、管理不良、非定常操作、緊急操作、誤判断、誤った理解
情報源 http://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/download/pdf/AI09-1-2-JA8904-JA8020.pdf
2008/2/19 日本経済新聞
2008/3/17 日本経済新聞
死者数 0
負傷者数 0
備考 事例ID:CZ0200901
分野 その他
データ作成者 藤田 泰正 (リバーベル株式会社)
畑村 洋太郎 (工学院大学)