失敗事例

事例名称 アクリル酸メチルタンクの悪臭防止用吸着塔の吸着熱などによる爆発
代表図
事例発生日付 1976年03月09日
事例発生地 兵庫県 姫路市
事例発生場所 化学工場
事例概要 アクリル酸メチルの貯蔵タンクへランダンタンクから移送中に突然爆発した。大気への悪臭拡散防止の吸着塔の活性炭素への吸着熱と酸化熱で発火し、タンクに拡大した。吸着塔の吸着方式について事前検討がなされていなかった。爆発性混合気形成防止のための不活性ガスによる置換が行われていなかった。
事象 アクリル酸メチル貯蔵タンク(1000kL)への送液中に、タンク内に形成されたアクリル酸メチル蒸気の可燃性混合気が脱臭塔の活性炭への吸着熱および酸化熱により発火爆発した。
プロセス 貯蔵(液体)
物質 アクリル酸メチル(methyl_acrylate)、図2
事故の種類 爆発・火災、健康被害
経過 当該タンクは1週間前から使用を開始した。事故前日までに4回,約325kLの受入作業を行い,事故当時約100kLがタンクに残留していた。
1976年3月9日10:40頃 製品タンク,貯蔵タンクのバルブおよび計器類の点検を行い,異状のないことを確認した。
11:00頃 受入れを開始した。受入作業前のタンク内液温は15℃であった。
12:05 約17kLを送液したときに貯蔵タンクが突然爆発し,火災となった。
原因 タンク気相部分およびタンク付帯の脱臭塔内にアクリル酸メチル蒸気と空気の可燃性混合気が形成された。着火源は,脱臭塔に使用している活性炭のアクリル酸メチルの吸着熱および酸化熱による発熱と考えられる。脱臭塔は直径600mm、高さ約4mであった。
対処 自衛消防隊による泡放水,公設消防隊による泡放水,付近タンクへの冷却注水が行われた。
対策 1.脱臭塔を活性炭による吸着方式からアルカリ吸着方式に変更する。
2.貯蔵タンク内に爆発性混合気が形成しないように不活性ガスで置換する。
知識化 吸着剤を使用する際には吸着熱の発生に注意する必要がある。また、貯蔵タンク内には爆発性混合気を形成させない。この場合、酸素が存在しない条件では、重合防止剤として添加されているメトキノンの効力が発揮されないので、酸素濃度が7%程度になるよう不活性ガスで置換する必要がある。
背景 アクリル酸メチルの脱臭塔の吸着方式の事前検討不足と思われる。事故後の愛媛工業大学の実験によれば、脱臭塔内の活性炭はアクリル酸メチルを吸収するとき、吸着熱の蓄積と酸化熱の発生により500℃以上の高温になることが確認されたとの報文がある。
よもやま話 窒素ガスによる完全置換はアクリル酸エステルの重合が起こるため、当時は行われていなかったが、その後、爆発性混合気形成防止のため、酸素濃度が7%程度になるよう不活性ガスによる置換が行われるようになり、アクリル酸エステル工業会発行の「アクリル酸及びアクリル酸エステル取扱安全指針」にも記載された。
データベース登録の
動機
実証実験によって着火源が明らかになった例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、事前検討不足、吸着熱などの検討なし、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、発熱、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、負傷、57名負傷、組織の損失、経済的損失、損害額1.5億円
情報源 消防庁、危険物製造所等の事故事例集‐昭和51年(1977)、p.128-129
姫路市消防局、N化学工業H製造所 爆発火災の概況
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.73-74,230
消防庁、屋外タンクの事故事例集(1983)、p.17-29
死者数 0
負傷者数 57
物的被害 工場内:発災タンク付帯設備焼損.爆風による建築物の窓ガラス等破損.
工場外:爆風により半径1.7kmの建築物窓ガラス等破損.(周囲事業所12、社宅3、医院1、専用住宅19)
被害金額 1億5,000万円(消防庁)
社会への影響 住宅街に刺激臭、住民から苦情.1976年3月10日夕、従業員60人による周辺民家約3000世帯の健康被害調査.
マルチメディアファイル 図2.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 和田 有司 (独立行政法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 開発安全工学研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)