失敗事例

事例名称 トリメチルインジウムの小分け作業中の空気の混入による爆発
代表図
事例発生日付 1998年12月11日
事例発生地 山口県 宇部市
事例発生場所 化学工場
事例概要 空気に触れると自然発火するトリメチルインジウムを昇華反応により小分けする装置において、作業の引継後にリーク試験をした際、バルブの開閉状況の引継が完全でなく、逆止弁からの空気の漏れもあってトリメチルインジウムが自然発火した。発災時の運転員は装置設計者で、引き継いだ時の状況から、確認もせず誤判断をした。
事象 化学工場で有機金属化合物のトリメチルインジウムを200ccの容器に小分け作業中、突然爆発した。この工場では固体のトリメチルインジウムを外部から持ち込み小分けしている。その操作は前半と後半に分けられる。前半は、減圧、加熱し昇華させ、生じた蒸気を真空ポンプにより中間容器に移送し、冷却凝固させる。後半が小分けで、中間容器では常圧で加熱して液化する。それを中間容器から計量層へ重力で落とし込む。計量槽から小分けは前半と同様に昇華を利用して行われる。上記した作業の間にアルゴンガスによるパージなどがバルブ操作で行われる。
プロセス 製造
単位工程 充填・小分け
物質 トリメチルインジウム(trimethylindium)、図2
事故の種類 爆発
経過 1998年2月 設備を設計し製作した。
12月1日 空気の混入のクレームがあったため、充填設備を連続式に改造した。
12月6-7日と8-9日 試験充填を実施した。
12月10日 購入容器から設備の中間容器への移動とアルゴン置換を完了した。
12月11日08:00 後半の作業を開始する前にリーク試験をしたところ漏れが認められた。
 アルゴンを流して常圧に戻し、トリメチルインジウムを融解するため加熱した。
 出荷容器を交換するごとにリーク試験をした。
10:00 出社してきた引継者にアルゴン置換の終了とリーク試験での漏れを伝えた。
 引継者が再度リーク試験をしようとバルブを操作した。
 十数秒後、バブラー内の液が逆止弁側に上昇しきったのであわてて開いたバルブを閉じた。
 次の瞬間に爆発した。
 火炎と爆発圧力により、引継前後の2名が負傷した。
 トリメチルインジウムはすべて燃焼した。
原因 1.トリメチルインジウムは空気と触れると自然発火する物質であり、バルブを開いた際に中間容器に空気が混入し発火した。前半と後半の作業を平行して行えるようになっていたが、昇華に必要な真空ポンプが1台だけのため、バルブの開閉ミスがあった。
2.バルブの開閉状況を引継時に正確に伝達していなかった。
3.逆止弁が空気の混入を完全には遮断できなかった。
対策 1.昇華を利用するので長時間を要する作業であり、作業状態を正確に伝達する。
2.バルブの開閉の表示札を設置する。
3.逆止弁を二重化するか、大気開放部分を不活性ガスに置き換える。
知識化 1.多数のバルブの開閉状況の伝達は実際には難しく、作業手順どおりの作業をどこまで進めたかを図を使って引き継ぐとよいであろう。
2.逆止弁は逆向きの流れを防ぐ機能を持っているが、常に完全に逆流を防止出来るわけではない。
3.空気混入禁止の装置は、大気に開放された箇所を作らない。
背景 1.装置をよく知っている人の思い込みでの誤判断(ヒューマンエラー)と設計の不十分(設備管理)が基本要因であろう。バルブを開いた作業者は装置の設計者であった。そのため、アルゴン置換まで済んだとの引継時の話と一部のバルブの開閉状況を見て、他のバルブの開閉状況も設計思想とそれに基づいた作業手順通りだと判断した。
2.空気混入禁止の装置であるにもかかわらず、大気に開放されている箇所があった。
3.本来は真空ポンプを2台用意し、前半後半の工程で1台ずつ専用にすれば、プロセスが簡便化でき、間違える可能性が減ると思われる。
データベース登録の
動機
装置をよく知っているものが、確認をせずに思い込みで間違った判断の例
シナリオ
主シナリオ 誤判断、誤認知、勘違い、不注意、注意・用心不足、作業者不注意、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、不良行為、規則違反、安全規則違反、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、自然発火、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、2名負傷
情報源 産業と保安、Vol.14(No.47)、p.5(1998)
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧‐平成11年版‐(2000)、p.150
産業安全研究所資料(非公開)
死者数 0
負傷者数 2
マルチメディアファイル 図2.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)