失敗事例

事例名称 アンモニア製造設備におけるスタートアップ用加熱炉下部配管でのガスの漏洩、火災
代表図
事例発生日付 1991年03月19日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 反応熱の回収熱交換器のある発熱反応器のスタートで反応が進行し、反応器入口温度が所定温度に到達したので、スタートアップヒーターを停止するため温度降下作業を開始した。温度降下速度が大きすぎてフランジボルトの締め付け力が不足し、循環ガスが漏洩し、火災になった。さらに原因としては降温作業開始前に行われる予定の増し締めが行われなかった。さらに運転開始時のホットボルティング時の締め付け力管理も熟練と勘に頼ってきたことも一因と考えられる。
事象 アンモニア合成装置で火災があった。定期修理終了後、アンモニア合成装置のスタートアップをした。反応温度に到達するまでスタートアップヒーターで加熱した。アンモニア合成反応が始まり、反応熱により熱回収用熱交換器だけでフィード予熱が可能になった。そこでスタートアップ用加熱炉を停止するため、降温作業を行っている時に、下部配管のつなぎ目から水素リッチ(水素79%)ガスが漏れ、加熱炉のバーナーにより着火した。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
反応 その他
物質 水素(hydrogen)、図3
アンモニア合成ガス(ammonia_synthesis_gas)
事故の種類 漏洩、火災
経過 1991年3月11日 スタートアップヒーター出口配管組立
14日 気密テスト 20MPaG、 翌日 33MPaG
19日02:25 スタートアップヒーター点火し、アンモニア合成器の昇温を開始した。
10:30 アンモニア合成器触媒温度が所定温度に到達した。
11:18 原料ガスを導入し、アンモニア合成を開始した。
13:25頃 スタートアップヒーターの降温を開始した。降温開始時のヒーター出口温度は約400℃であった。
14:25 スタートアップヒーターで異常音が発生し、下部に火災を発見した。この時のヒーター出口温度は約305℃であった。
原因 1.スタートアップ作業におけるスタートアップヒーターの降温速度が大きかった。そのため、フランジ部のボルト締付力の低下を生じたものと考えられる。
 情報源資料のグラフから読むと、1時間に約100℃の温度降下になっている。作業マニュアルでは50℃/hr以下となっている。
2.降温作業時に予定された増し締めは、段取り中で、実施されていなかった。
対処 緊急停止、反応系を緊急降圧し、窒素封入で窒息消火した。
対策 1.「スタートアップ出口配管フランジ締付および増し締め作業規準」を作成しボルト締付作業におけるトルクの定量管理の徹底
2.燃料調整弁を65Aの既存弁に加えて25Aの玉型弁と圧力計を追加し、温度降下時の速度制御をしやすくする。
知識化 1.運転頻度の少ない設備でも、制御すべきものはその特性にあった制御方式を考える必要がある。
2.可能であれば、定性的な管理を定量的な管理に変更することが重要である。
背景 事故発生原因に示した2項目と、スタート時のホットボルティングのトルク管理が勘と経験に頼っていたことと合わせ考えると、ずさんな運転管理が基本要因であろう。
後日談 過去から増し締めは経験で実施してきており、定量的な管理はしていなかった。フランジ締付には、軸力管理を徹底する。
よもやま話 降温速度の制御を65Aのゲートバルブ2ヶの現場操作で行っていたらしい。降温時はすでに燃料要求量も減っているはずで、全負荷でも余裕があるバルブの手動操作で制御させていた。多分、ほぼ全閉に近い状態で運転員の指先の感覚に頼るような運転である。まれにしか運転しない設備なので、軽視していたのであろう。
 65A: 呼び径65mmの配管用バルブ。国内では配管サイズをmm単位で表す場合は"A"、インチ単位で表す場合は"B"とする。だだし、国際的には通用しない。
データベース登録の
動機
作業頻度が少ないからと合理的でない制御をしてきたために起こった事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、手順の不遵守、手順無視、降温速度過大、計画・設計、計画不良、工事計画、使用、保守・修理、締付け不足、機能不全、ハード不良、フランジから漏洩、二次災害、損壊、漏洩・火災
情報源 産業と保安、Vol.7(No.12)、p.4(1991)
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.141-145
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 設備,機器の損傷等
マルチメディアファイル 図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)