失敗事例

事例名称 有機過酸化物触媒の分解反応による爆発・火災
代表図
事例発生日付 1993年10月01日
事例発生地 三重県 四日市市
事例発生場所 化学工場
事例概要 特殊合成樹脂製造装置を停止したが、触媒供給ポンプを停止せず、循環運転をしていた。そのため有機過酸化物である触媒液の温度が上昇し、触媒が自己発熱分解をし、爆発した。ポンプの循環運転に伴う発熱に対する理解が欠けていた。
事象 エチレン、プロピレンをベースに特殊な合成樹脂を製造する装置の一時的な運転停止時に爆発があった。装置停止中に有機過酸化物触媒の供給ポンプを停止せず、循環運転をしていた。触媒調整槽で、突然爆発が起こった。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート(t-butyl_peroxyisopropylcarbonate)、図3
事故の種類 爆発・火災
経過 1993年9月26日19:15 特殊合成樹脂製造装置をグレード切換のため停止した。
 ただし、装置は停止したが触媒供給ポンプは停止せず、循環運転をしていた。
10月1日 計器室の窓越しに、触媒調製槽安全弁の排気口より白煙の噴出を認めた。
 触媒調製槽の安全弁が作動していた。
15:20頃 触媒ポンプを急いで停止した。しかし、爆発音とともに、黒鉛が上がり火災が発生した。
 ただちに装置の緊急停止をした。
原因 触媒供給ポンプを停止せずに運転継続した。ポンプでの吸熱、配管での摩擦熱などで、循環液が蓄熱し、触媒の有機過酸化物が分解反応を起こした。
対処 自衛及び公設消防による散水
対策 1.装置停止時には必ず触媒ポンプを停止するようにインターロック化する。
2.触媒の有機過酸化物について再教育をする。
3.作業標準を改訂する。
知識化 ポンプの効率は100%ではない。100%に満たない部分は全て熱に変換される。循環運転する場合は、系からの放熱がポンプの熱発生分と循環系の摩擦による発熱の合計値以下なら必ず温度上昇し、危険な状態になる。
背景 1.ポンプに入力されたエネルギーがどのように消費されているか理解できないことが、基本要因であろう。ポンプ効率の100%にならない部分のエネルギーは、ポンプ内で揚液の温度上昇になる。また、循環運転の場合はポンプによる液の圧力上昇分は流体の内部摩擦や流体と配管の摩擦に使われる。言い換えると、ポンプに入るエネルギーはすべて液の温度上昇になると考えるべきである。ポンプ運転の常識といっても過言ではない。
2.ポンプの循環運転をしていれば、温度上昇は当然の帰結である。触媒の特性を合わせ考えると、運転の危険に関する知識が不十分であるといえよう。
データベース登録の
動機
装置停止時にポンプの停止をせずに発熱した例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、無知、知識不足、勉学不足、計画・設計、計画不良、定期修理計画不良、定常操作、誤操作、冷却水サービスしない、不良現象、熱流体現象、摩擦熱、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発・火災、組織の損失、経済的損失、損害額1500万円
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例‐平成5年(1994)、p.284-287
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧‐平成7年版(1995)、p.264-265
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 鉄骨スレート葺きのプラント建屋の壁体及び触媒調整用機器等を一部焼損.隣接プラント一部類焼.
被害金額 1,500万円(消防庁による)
マルチメディアファイル 図3.化学式
備考 WLP関連教材
・プラント機器と安全-運転管理/回転機器の安全
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)