失敗事例

事例名称 誤って取り外した配管から噴出したメタノールの溶接火花による火災
代表図
事例発生日付 1991年12月26日
事例発生地 埼玉県 狭山市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1991年12月26日昼頃、接着剤製造装置で通常の作業通りに反応器からタンクにメタノールを戻そうとした。配管が開放されていたため噴出し、溶接火花で着火した。装置増設のため撤去工事があり、間違った配管を撤去したために起こった。運転側のラインアップのミスが事故に直結した。
事象 合成樹脂接着剤製造装置において通常通りメタノールを反応缶からメタノールタンクに戻そうとした。配管が誤って撤去され継手部が開放状態になっていた。メタノールが漏洩し、付近の溶接火花により引火して火災となった。図2参照
プロセス 製造
単位工程 設備保全
物質 メタノール(methanol)、図3
事故の種類 漏洩、火災
経過 1991年12月21日 工事担当者が装置増設のための変更工事の内容を指示した。このとき、撤去する配管の指示を誤り、必要な配管を撤去させた。
26日11:30頃 反応器のメタノール1500Lを変更工事中で仮使用している洗浄用メタノールタンクに戻すため、ポンプを起動した。開放状態の継手部分から噴出し(毎分100L)、約4m離れた地点での溶接作業箇所に流出して溶接火花により引火し火災となった。
消火器で初期消火をしたが消火できず、従業員の避難後に泡消火設備を起動した。
11:42 火災を鎮圧した。
11:43 119番通報をした。
原因 1.工事担当者が撤去する配管の指示を誤った。
2.作業前の配管のラインアップ確認を怠った。
ラインアップ: 作業開始前に関連する配管や機器の全てのバルブの開閉状態を確認する作業で、最重要の基本作業の一つである。
対処 消火器による初期消火。従業員の避難。泡消火設備を起動。消防署への通報。
対策 1.変更工事の指示担当者を複数とする。移送作業の際の連絡を密にする。不要配管であっても継手部を開放状態としない。
2.基本的にはラインアップの意義を徹底し、実施することが最重要の対策であろう。
知識化 1.配管類の変更工事の際は、記録を残すとともに配管図の修正を怠らない。
2.システム全体を理解しようとしない者は、指示書や作業命令に疑問を持たない。
背景 1.二棟に分かれての工事で、両方の棟の状況を把握して作業していない。工事の監督責任が問題であろう。
2.未だ火気使用工事を行っているところへの移送作業をするのに、ラインアップが十分に行われていない。
3.指示ミスで必要配管を撤去している。運転側が立ち会っていたら、そのことに気が付かねばならない。
よもやま話 ☆ 文書化された指示の誤りが修正されることはほとんど期待できないので、作成する際には細心の注意を要する。
☆ 当然運転側の立合があったろう。それでも撤去配管を間違えたとしたら、立合とは立ちん坊とは違うことを勉強しなくてはならない。
データベース登録の
動機
変更工事で必要な配管を取り外したため漏出した例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、管理の緩み、誤判断、誤認知、勘違い、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、使用、保守・修理、誤った指示、定常動作、不注意動作、ラインアップでミス、二次災害、損壊、漏洩・火災、組織の損失、経済的損失、直接損害額5400万円
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例-平成3年(1992)、p.33、62-63
物的被害 メタノールタンク付近建物部分焼.施設装置,電気配線,計測器等焼損及び水損.
被害金額 約5,400万円(危険物に係る事故事例)
マルチメディアファイル 図2.設備の配置と撤去した配管図
図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)