失敗事例

事例名称 地震による排ガス除害塔からの塩化水素ガスの一部漏洩
代表図
事例発生日付 1987年12月17日
事例発生地 千葉県 袖ケ浦町
事例発生場所 化学工場
事例概要 1987年12月17日11:35頃、塩ビモノマー装置の平常運転中、強い地震を感じ緊急停止作業中、変電所が過電流リレーの誤作動で停止した。非常用発電機が起動したが、冷却水タンク液面の地震による揺れを液面の低下と誤認識し、非常用発電機も緊急停止した。そのため排ガス処理搭のアルカリ循環ポンプが停止し、ガスが放散された。
事象 塩化ビニル(塩ビ)モノマー製造装置で、強い地震を感じた。装置の緊急停止操作を行い、反応系内の塩化水素ガスの一部を排ガス除害塔へ導いた。緊急停止操作と並行してプラント内のガス漏れ、液漏れ、臭気などのパトロールを実施したところ異常は見つからなかった。しかし、地元行政機関や消防から臭気の情報があったほか、隣接企業の2名が点滴治療を受けた。検討の結果、除害塔から少量の塩化水素ガスが漏洩したことがわかった。図2参照
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
物質 塩酸(hydrochloric acid)、図4
事故の種類 漏洩、環境汚染
経過 1987年12月17日11:08 強い地震が発生したので、プラントの緊急停止操作を開始した。
 ほぼ同時刻に変電所の過電流継電器の誤作動により工場内が停電し、非常用発電機が起動した。しかし、非常用発電機はトリップして、停止した。
 緊急停止操作によりインターロック機構が働き、反応系内の塩化水素ガスの一部が排ガス除害塔へ導かれた。
11:14 作業員が非常用発電機を再起動した。
 緊急停止操作と並行してプラント内のガス漏れ、液漏れ、臭気などの詳細点検パトロールを実施した。異常はなかった。
11:35頃 消防と地元行政のパトロール車から臭気の問い合わせがあり、実情を調査したが異常臭気は感じられず、その後のパトロールでも漏れは発見されなかった。
 時刻、範囲、風向き、臭気の種類、非常用発電機のトリップと再起動などから除害塔のベントスタックから約2分間、約6kgの塩化水素ガスが放出されたと推定された。
原因 地震により変電所の過電流リレーが誤作動し、停電になった。そのバックアップで非常用発電機が起動したが、液面センサーが地震による冷却水タンクの揺れを水位低下と誤認してインターロックにより非常用発電機が停止した。運転員による発電機の再起動と循環ポンプの起動まで5~6分を要した。除害塔は苛性ソーダ液の循環ポンプが止まると、除害能力が4~5分後に失われるので、ポンプを起動するまでの2分間程度、塩化水素ガスがベントスタックから放出されたと推定される。
対処 1.緊急停止操作。
2.パトロール。
3.非常用発電機の再起動。
対策 1.除害塔の循環ポンプを計器室からの遠隔起動に変更する。
2.非常用発電機冷却水タンクに水位計を設置する。
3.液面センサーの水位低下のインターロックをアラームに変更する。
4.上記の変更に伴うマニュアルの見直しと教育の徹底を行う。
5.工場全体が異常状態になった場合の工場内通報体制の検討を行う。
知識化 1.非常時に機能を発揮させるために設けられている装置類が、非常時に停止することは被害を拡大する。日頃の維持管理や点検、自然災害時の機能確保が重要である。
2.地震の多い日本では、スロッシングを液面低下と誤認識させない計装設備が必要である。
背景 1.過電流リレーが地震により誤作動した。日常の保守点検の問題かもしれない。
2.スロッシングを液面低下と誤認識してしまった設計上の問題も考えられる。
よもやま話 ☆ 地震による災害のようではあるが、実際には過電流リレーの誤作動とスロッシングを液面低下と誤認識したことによる事故である。スロッシング対策誤認識防止は全国的なテーマであろう。
☆ 事故発生原因欄に循環ポンプが止まっても4,5分は機能が維持できる旨書かれている。使用した資料に書いてあったが、除害塔の形式が充填塔なので、ポンプが止まったら機能維持は数十秒が限界だと思うべきだ。充填部の液量が非常に少ないことと、その液が直ぐに塔底に落ちることからである。
データベース登録の
動機
液面変動を液面低下と誤認識したためおきた例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、設計不良、機能不全、ソフト不良、計器誤作動、不良現象、電気故障、自家発停電、二次災害、損壊、漏洩
情報源 高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.175-182
負傷者数 2
社会への影響 1987年12月17日11:35頃,地元消防からホットラインによる通報,及び地元行政機関のパトロール車からの臭気情報により塩化水素ガス放散と判断された.
マルチメディアファイル 図2.排ガス除害塔図
図4.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)