失敗事例

事例名称 ヒドロキノン製造装置の窒素シールされたトルエン排水タンク気相部の爆発・火災
代表図
事例発生日付 1984年03月05日
事例発生地 山口県 和木町
事例発生場所 化学工場
事例概要 1984年3月5日にヒドロキノン製造装置内の窒素シールされたトルエン排水タンクが突然爆発炎上した。装置の幾つかの不調により、以下の要因が重なり事故に至った。
・トルエン排水タンク内にアルカリ水相を形成した。
・過酸化水素がこのトルエン排水タンクへ流入した。
・過酸化水素がアルカリで分解し、トルエン排水タンク内に酸素が発生した。
・さらにトルエン排水タンク内のトルエン蒸気によるトルエン爆発性混合気を形成し、着火(静電気と推定される)した。
これらは、工程異常に対する様々の処置の中で発生した。異常に対する処置方法は事前に明示していなかったため、危険な状態に陥ってしまった。
事象 ヒドロキノンプラント内の窒素シールされたトルエン排水タンクが突然、爆発、炎上した。この事故により、TK-102の屋根板等が飛散し、この破片が隣接する設備の一部に損傷を与えるなどの物的被害を生じさせたが、人的被害はなかった。
プロセス 製造
単位工程 廃水・廃油処理
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 トルエン(toluene)、図3
排水(waste water)
事故の種類 爆発・火災
経過 1. TK-102内アルカリ水相の存在
1984年3月2日20時50分から3日9時の間に、TK-102内の水量が不足したため、酸化物抜き出しタンク(TK-104)内の水酸化ナトリウム水溶液をTK-102へ移送した。3月3日に酸化工程内酸化塔洗浄のため、塔頂より水酸化ナトリウム水溶液と水を注入した後、塔底の水をTK-102へ移送した。上記の2作業によりTK-102内にアルカリ水相が存在していた。
2. 過酸化水素のTK-102への流入
3月5日午前0時ごろから装置内他部門の温度制御が不調になり油相中の水分が増加した。さらに油水分離器の水抜き出し弁の閉塞により、過酸化水素を含有した排水がTK-102へ移送された。
3. 上記1.2.により、3月5日午前2時30分~3時30分ごろにTK-102に移送された過酸化水素はアルカリ性水相のもとで、分解反応により酸素ガスを発生させた。
この酸素ガスが、TK-102内のトルエン蒸気と混合し、可燃性混合気を形成し、3月5日午前4時ごろ、爆発・炎上した。
着火源は液の流動による静電気の発生と推定されている。
原因 TK-102に過酸化水素とアルカリが混在することになった。そのため、TK-102に流入した過酸化水素が、分解反応を起こし酸素ガスを発生させた。その酸素とタンク上部空間に存在したトルエンと爆発性混合気を形成するに至った。さらにこれが静電気の放電により爆発したものと推定された。TK-102は窒素シールされたタンクで、通常のトルエン蒸気の存在だけでは問題なかったが、幾つかの悪条件下で酸素が発生し、窒素シールの効果がなくなった。
対策 1.運転管理の改善:プラント異常時の処置方法の明示、報告・指示の徹底、運転標準等見直し
2.プラント運転技術教育の反復、周知徹底
知識化 プラント異常時の処置方法について、その処置に関する、報告、指示も含めて明記すべきである。特にプロセス排水は水ではなく、薬品類や可燃物を含んだ混合物の認識を持って、異常時の処置については、危険のない方法を検討し策定、明示しておくべきである。
背景 1.排水の内容について定常運転時の条件でだけ考えられていたと推定する。運転異常時の排水性状にまで考えられていなかった。今回の事故は運転異常が2カ所同時に発生していることが原因であり、そこまでは検討の対象になっていなかった。1974年完成の装置であり、当時の設計では二ヶ所同時の異常時の対策は少なく、ある意味でやむを得なかった事故かも知れない。
2.ただし、プロセス排水は単なる水ではなく、有機物、酸、アルカリなどの薬品が混ざり、危険な存在との認識が不足していたと考えられる。その意味ではプロセス設計時の検討の深さ、広さが問われる問題であろう。HAZOPの手法では難しいだろう。
よもやま話 ☆ タンクを窒素シールしておけば安全であるという考えは一般常識であるが、排水タンクのようにいくつかの流出元を持つタンクでは、混触があると必ずしも安全とは言えないことが分かった、
データベース登録の
動機
異常時処置方法不明確のため可燃性混合気が形成された例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、無知、知識不足、勉強不足、計画・設計、計画不良、タンク使用計画不良、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、組織の損失、経済的損失、排水タンクなど焼失
情報源 M石油化学株式会社事故調査委員会、ハイドロキノンプラント事故調査報告書(要約)(1984)
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.152-153
物的被害 トルエン排水タンク(TK102)の屋根板等飛散,隣接設備一部損傷.
マルチメディアファイル 図3.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/混合
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)