失敗事例

事例名称 4‐クロロ‐2‐メチルアニリンの真空蒸留中の空気漏れと誤判断による破裂
代表図
事例発生日付 1973年12月04日
事例発生地 茨城県 神栖町
事例発生場所 化学工場
事例概要 1973年12月4日 4-クロロ-2‐メチルアニリン(CMA)の製造装置において、粗製CMAを精製槽で精製し、精製CMAを塔頂から得た。底部の残液を処理槽に移して残ったCMAの回収を行った。真空下で再蒸留を行っている時に、フランジ部から空気が混入しタールを生成した。異常反応により温度が上昇しているところに、精製槽に流出させた着色CMAを移送したので、CMAと高温タールが反応して塩素ガスが発生した。残液中のタール分が吹き上がり、処理槽につながるすべての配管を詰まらせ、圧力と温度が上昇して蒸留槽が破裂し、3名死亡、3名負傷した。
事象 自社開発装置の4-クロロ-2‐メチルアニリン(CMA)の製造装置で、処理槽が破裂した。粗製CMAを精製槽で精製し、精製CMAを槽上部から得た。底部残液に残るCMAを回収するため、残液を処理槽に移し、真空下で再蒸留を行った。再蒸留中に異常反応が起こり、処理槽が破裂した。3名が死亡し、3名が負傷した。
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸発
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
化学反応式 図2.化学反応式
物質 4-クロロ-2-メチルアニリン(4-chloro-2-methylaniline)、図4
事故の種類 破裂
経過 1973年12月4日 04:40 粗製CMAを精留槽で精製、CMAをある程度回収した残渣を処理槽に移し、真空下で再蒸留を開始した。
06:40 処理槽留出の精製CMA留分が黒ずんできたため、これを製品タンクへ移送することを中止し、精製槽に戻すようバルブを切り替えた。このとき精製槽から処理槽へのバルブは閉止されていた。
08:30 この辺りで、精留槽への留出は終了したらしい。処理槽残渣のタールを抜き出すため、窒素にて処理槽を常圧に戻した。
08:40 処理槽底部バルブが開かなかったので、再び蒸気側からの留出を開始した。
09:10 処理槽撹拌機が停止した。タールの粘性が強くなったためと判断した。
09:15 精留槽内残液が処理槽に移送された(らしい)。この時、運転員は処理槽内温度が通常の170℃に比べて異常に高く200℃以上になっているのを知り、再び減圧にした。しかし、温度・圧力ともに低下しなかった。圧抜きや散水冷却を試みた。
09:39 破裂事故が発生した。
原因 真空蒸留をしている処理槽に空気が漏れ込み、蒸留残渣が酸化発熱した。前日変更工事を行った処理槽上部の蒸気ラインのバルブフランジのガスケットを交換した。何らかの理由で、そのガスケットの部分から空気が漏れ込んだ。さらに反応触媒に起因する酸化第一銅が酸素と塩化水素の存在で塩化第二銅を生成し、このときに残渣タールとなって真空系配管などを閉塞した。この状態で精留槽から処理槽へのバルブを開けたため、CMAが処理槽に入った。CMAと高温タールとの反応で硫化水素ガスが発生し、タールが配管全てを閉塞したので、槽内圧が上昇して破裂したものと考えられる。工事時のミスからの空気漏れと着色CMAを移送した誤判断が直接原因である。
対策 1.安全管理体制を強化し、安全管理監督者の権限と責任を明確化する。
2.異常時の対応を適切に行えるように各シフトチームの運転作業員の人員構成の適正化と教育・訓練を行う。
3.異常によって内部圧力が上昇する可能性のある設備には、警報装置、安全破裂板、急冷設備、ブローダウン装置などの安全設備を設置する。
4.配管、バルブの加温設備設置や配管径を太くするなどの詰まり防止対策を施す。
5.減圧系のリーク検査を定期的に行なうとともに、フランジのパッキングは信頼性の高いものを用いる。
6.異常時操作は遠隔で行えるようにする。
7.異常時対応も含めた作業標準を整備する。
8.少しでもプロセス異状があればその原因を究明し、改善措置をとる。
知識化 1.プロセス設計において想定されるすべての事象について展開するシナリオを検討し、安全対策を組み込む。真空系の場合は空気漏れの検討が絶対に必要である。また不純物の作用を検討しておく。
2.少しでもプロセス異状があればその原因を徹底的に究明し、改善措置をとる。
3.異常反応により火災爆発のように人的被害の可能性が想定される場合の異常時対応は遠隔操作で行えるようにする。
背景 1.新規開発技術のプロセスの危険性解析が不十分である。
2.これまでに異常発熱現象があったにもかかわらずその原因究明や改善措置がとられていなかった。現場管理者のプロセス危険に対する意識が低いと推測する。
3.真空系に空気漏れは起こりやすい。工事翌日に空気漏れを起こすような工事管理が問題であろう。
データベース登録の
動機
プロセス設計において、安全性評価が不十分であり、また運転を始めてからも潜在危険を見つけ出そうとする姿勢がなかったため起きた事故例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、管理の緩み、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、調査・検討の不足、事前検討不足、不純物の影響検討不足、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、点検、不良現象、化学現象、異常反応、破損、大規模破損、破裂、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失
情報源 高圧ガス保安協会、鹿島コンビナート保安調査報告書(1981)、p.42-43
高圧ガス保安協会、コンビナート事故事例集(1991)、p.53-59
労働省安全衛生部安全課、4‐クロル‐2‐メチルアニリン製造装置爆発事故調査報告書(1974)
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.98
死者数 3
負傷者数 3
物的被害 残渣処理槽,配管類,保温材,建屋床面(中2階10平方m,2階40平方m,3階6平方m)破損.製品CMA500kg飛散.
マルチメディアファイル 図4.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/蒸留における安全
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)