失敗事例

事例名称 o‐ニトロクロロベンゼンの反応開始時の攪拌開始の遅れによる爆発
代表図
事例発生日付 1973年07月18日
事例発生地 和歌山県 和歌山市
事例発生場所 化学工場
事例概要 o‐ニトロクロロベンゼンからo‐ニトロアニソールを製造する装置で爆発があった。最初に反応槽にメタノールと水酸化ナトリウムを仕込んで攪拌を行った。攪拌機のモータが不調であったため、攪拌を止めてモータの取替え作業を行った。撹拌再開前にo‐ニトロクロロベンゼンを仕込んだため、原料が2相に分離した。モータの交換を終えて撹拌を再開したとき、分離していた2相が急激に混合された。そのため、急激な反応が起こり、温度、圧力が急上昇し、安全弁およびマンホールから内容物が噴出して発火・爆発した。
事象 o‐ニトロクロロベンゼンからo‐ニトロアニソールを製造する装置で、反応槽の安全弁およびマンホールから内容物が噴出して発火・爆発した。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
化学反応式 図2.化学反応式
物質 水酸化ナトリウム(sodium hydroxide)、図4
メタノール(methanol)、図5
o-クロロニトロベンゼン(o-chloronitrobenzene)、図6
事故の種類 漏洩、爆発、健康被害
経過 1973年7月18日01:00 反応槽を水洗し、メタノールの仕込みを開始した。
02:00 反応槽に水酸化ナトリウムの仕込みを開始した。
02:15 反応槽の攪拌機を起動し、同時に冷却を開始した。
06:00 攪拌機を停止し、冷却水の送水を中止した。撹拌機モータが不調であるため、モータの取替え作業を始めた。
07:30 モータの取り外しを終了した。
08:00 作業員が引継ぎを行い、交替した。
08:40~50 o‐ニトロクロロベンゼンを反応槽に仕込んだ。
09:30~10:00 攪拌機のモータを取り付けた。
10:00 攪拌を再開した。
10:20 蒸気送りを開始した。
10:40 液温が50℃に上昇したので、蒸気送りを停止した。それでも昇温が続いた。
11:00 60℃になったので、冷却を開始したが、さらに温度が80℃に上昇し、圧力も上昇したので、圧力低下の作業などを行ったが効果はなかった。
11:05 噴出、爆発・火災となった。安全弁が作動し、さらにマンホールから内容物の黄色の液体が3m位噴出した。作業員は退避しようと階段を下りかけたときに爆発音とともに5m位の火炎が噴きあがった。
原因 o‐ニトロクロロベンゼンを仕込むときに攪拌をしていなかったため、原料が2相に分離していた。そこに攪拌を再開したので、急激な反応が起こり、圧力・温度が急激に上昇してコントロールできなくなった。
対処 昇温が続いたので、加温蒸気送りの停止、冷却を行ったが、反応暴走を止めることができなかった。
対策 1.機器、設備の故障も想定した作業標準の整備をする。
2.反応危険、異常時対応等に関する作業員の教育・訓練を行う。
3.攪拌停止ではニトロクロロベンゼンの仕込みができないように起動時のインターロックを設けるとともに、運転中に攪拌を停止した場合にそなえて、攪拌を再開しても反応が起こらない安全な低温に出来るような設備に改善するか、内溶液を他所に放出して安全な濃度に希釈できる設備などを設ける。
知識化 1.運転中の攪拌機停止後の攪拌の再開で事故を起こす例は多い。同様のことが、運転開始時の攪拌遅れでも言える。攪拌開始を絶対条件にするシステムを考える必要があろう。
2.作業標準は機器・設備の故障や異常事態も想定して作成する。
背景 1.作業員が反応の危険性をよく理解していなかったため、モータの故障に際し、安易に作業標準に従わずに作業を行ったか、あるいは作業標準が不備であった。いずれにせよ、反応に関する安全教育が不十分であったと思われる。
2.攪拌停止時には、ニトロクロロベンゼンの仕込みができないようにする起動インターロックが無いなど、設備の安全対策が十分ではなかった。
データベース登録の
動機
作業標準あるいは教育・訓練に緊急時対応の観点が乏しいと思われる事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、その他の反応、不良行為、規則違反、安全規則違反、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、69名負傷、身体的被害、発病、近隣住民被災
情報源 田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.130
負傷者数 69
物的被害 鉄骨3階建工場の壁面焼損.反応釜破損
社会への影響 ニトロクロロベンゼン、メタノールなどがミスト状になって住宅地などに飛散し、住民や児童等が目やのどに痛みを訴えて病院で手当てを受ける。
マルチメディアファイル 図4.化学式
図5.化学式
図6.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/混合
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)