失敗事例

事例名称 塩化ビニルモノマー製造装置におけるバルブの破損による塩化ビニルモノマーの漏洩、爆発
代表図
事例発生日付 1973年10月28日
事例発生地 新潟県 上越市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1973年10月に起こった事故である。S化学N工場塩化ビニルポリマー製造工場で、蒸留塔へ供給する粗製モノマーのろ過器のエレメント交換を行うため、ろ過器を大気に開放した。ろ過器の入口弁が内漏れしていたため、ストップバルブを閉めようとして、大きな力をかけ破損させた。そこから塩化ビニルモノマーが漏洩、爆発、火災となった。なお、バルブは鋳鉄製で、しかも腐食していた模様である。
事象 塩化ビニルのポリマーを製造する塩化ビニルモノマー製造装置で爆発・火災があった。当日、粗製モノマー(塩化ビニル)タンクから蒸留塔へ供給する配管の途中にあるろ過器のエレメントの取換作業中、手前のストップバルブから塩ビモノマーガスが漏れているのに気付いた。バルブを閉止しようとして無理な荷重をかけ、これを破損した。タンク内の塩ビモノマーガス約4トンが開放されたろ過器を通って流出し、何らかの着火源により爆発、当該装置および製造所に延焼した。あるレポートでは、着火源は冷蔵庫の電気火花とある。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 塩化ビニル(vinyl chloride)、図3
事故の種類 漏洩、爆発・火災、環境汚染
経過 発災までの経過は事象欄に示した。
1. 粗製モノマーの噴出から爆発まで約15分かかった。この間、危険と判断した作業長の指示で従業員は退避した。
2. 作業長は、スイッチ切断等の確認のために再び工場内に入り、爆発に巻き込まれ、死亡した。
 わざわざ確認に戻るのは無謀ではあるが、理解は出来る。
3. 小爆発を繰り返しながら工場全体が火災となり、約47時間後に鎮火した。
原因 1.修理作業中のバルブ取扱いのミスからバルブのヨークを破断したため、バルブは全開状態となり、バルブ上流側の配管と粗製モノマータンク内の塩ビモノマーが流出した。開放したストレーナーの上流側ストップバルブの内漏れに気付き、3インチのバルブに対し柄の長さ50cmのハンドル回しで、強引に完全閉止にしようとした。その結果、ヨークを破損した。運転管理の問題と考えられる。
2.破損したバルブは鋳鉄製で、鋳鋼製に比べて強度が格段に落ちるところに、さらに腐食があった。施設の管理不十分とも言える。
 ハンドル回し: バルブのハンドルを回すために使用する治具で、直線上のハンドルの先端にコの字型の口をつくり、バルブハンドルに引っ掛けて、直線上のハンドルの先端を回してバルブを開閉する。3インチバルブに柄の長さ50cmは長すぎる感じがする。
対策 運転設備管理の改善
1.修理作業中の管理(バルブ1つの縁切りで大気開放しない、ハンドル回しの使用制限など)
2.保守点検(バルブ等の腐食の確認)
3.鋳鉄製バルブから鋳鋼製バルブへの変更など
知識化 バルブの開閉にハンドルやスピンドルの強度以上の力をかければ、その部分からバルブが破壊されることは当たり前のことであり、どこの工場でも禁止されているはずである。開閉に必要以上の力を要求されるには、機械的プロセス的に理由があるはずである。その解明をし、適切な対策を打つ必要がある。また、バルブ1つの破壊が大事故につながりかねないことを意識すべきである。
背景 バルブに無理な荷重をかけるのは絶対に禁物である。装置運転の基本作業の一つである。治具を使うならバルブのサイズに対応した治具だけを使うべきである。また、鋳鉄製のバルブが使われていたが、鋳鉄製のバルブは強度に欠けるためよけい取扱に注意が必要である。バルブ腐食の指摘もあり、会社全体としても安全管理が不十分であったと思われる。
後日談 当時は、高度成長時代で安全管理の面には配慮が足りなかった。日本国内での一連の事故の後、危険な設備の防災体制の強化、法令面の整備が進んだ。
よもやま話 ☆ 鋳鉄製のバルブが使われていた。鋳鉄バルブは鋳鋼バルブに比べ強度が格段に低い。現在では高圧ガスの装置に鋳鉄バルブを選定することはないと思う。
データベース登録の
動機
バルブを破損して大惨事になった例
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、取扱い不適、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不良行為、規則違反、安全規則違反、使用、保守・修理、点検不足、破損、破壊・損傷、破裂・破断、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、事故死1名、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額8億円
情報源 通産省、S化学工業(株)N工場塩化ビニールモノマー製造装置事故調査報告書(1973)
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.167-169
安全工学協会、こんなときに事故が起こる 事故未然防止の基本(1991)、p.27-28
死者数 1
負傷者数 23
物的被害 塩化ビニルモノマー工場、重合工場、乾燥工場、事務室など焼失。半径2.2kmの公共建物および民家約660棟が爆風で窓ガラスや屋根等に被害。
被害金額 7億8100万円
社会への影響 燃焼で発生した塩化水素ガスのため農作物被害約16万平方m
マルチメディアファイル 図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)