失敗事例

事例名称 過積み警報を無視したタンクローリーへの積み込みによるガソリンの漏洩
代表図
事例発生日付 1994年07月23日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 製油所
事例概要 タンクローリー運転手がローリーのタンクの切替えをしていないのに切り替えたと思い込み、満液となっているタンクに積込みを続行した。そのためオーバーフロー防止装置が作動した。運転手および計器室担当者とも、原因の確認をしないで、誤作動と判断した。計器室担当者は警報をリセットし、運転手は閉止されたオーバーフロー防止弁を強制開放しながら、すでに満液となっているタンクに積み込みを強行した。このためローディングアームシール部とタンクマンホールの隙間からガソリンが噴出し、運転手は負傷した。なお運転手がローディングアームを離したため、オーバーフロー防止弁の強制開放が解除され、再び積み込み停止状態になったので、被害は最小限に止まった。
事象 タンクローリー運転手がローリータンクにガソリンを積込み中、N0.2 タンクヘの積込みが満液となり終了した。次にNo.3タンクへの積み込みに移ったが、タンクの切替えを忘れ、No.2 タンクにさらに積込もうとした。過積み防止装置が働いた。警報が鳴り、オーバーフロー防止弁が閉止した。ローリーステーションの係員と運転手は状況を確認せずに誤作動と判断した。計器室係員はアラームをリセットし、タンクローリーの運転手はオーバーフロー防止弁を一時的に停止状態の解除を行い、積込みを強行した。
その結果、ローディングアームシール部とタンクマンホールの隙間からガソリンが1~2L噴出した。噴出したガソリンはローリー運転手の目に入り通院7日の軽傷を負わせた。図2参照
プロセス 輸送
単位工程 移送
単位工程フロー 図3.機械式オーバーフロー防止弁の作動状況図
物質 ガソリン(gasoline)
事故の種類 漏洩
経過 1994年7月23日10:59 タンクローリー運転手はローリーステーションの計器室受付で荷積みの指示を受けた。
11:09 No.5タンクの積込みを終了し、No.2タンク(2kl用)ヘガソリンの積込みを開始。
11:11 No.2タンクの積込み完了し、No.3タンクの積み込みに移る。
11:12 タンクの切替を忘れ、No.2タンクに2回目の積込みを開始。ローディングアームに取付けられた機械式オーバーフロー防止弁が作動し流れを遮断した。同時に荷積み場と計器室の両方の異常警報システムが作動した。ブザーが鳴動し異常ランプが点灯し、流量調節弁が閉止した。計器室係員は異常ランプの点滅を確認したが、少量で異常警報システムが作動した誤作動と思い込んだ。放送で現場係員に液面の確認を依頼すると同時に、異常警報システムをリセットし、異常警報ランプを消灯した。
11:13 タンクローリー運転手は異常警報システムの誤作動と判断、計器室の異常警報ランプの消灯を確認後、オーバーフロー防止弁を手で強制開放しながら、積込みを続行した。このため、ローディングアームシール部とタンクマンホール隙間からガソリンが噴出し、顔面にガソリンを浴び目を負傷した。ローリー運転手が押えていたオーバーフロー防止弁を離したため、同防止弁の強制開放が解除され、異常警報システムが再作動し、ガソリンの積込みは自動に停止した。
原因 1.ローリー運転手がタンク切り替えをしたと思い込んだ。
2.ローリー運転手とローリーステーション計器室係員の計2名が同時に異常警報装置の作動を誤作動とし、確認作業をしないで、あるいは確認の結果を待たないで、警報装置のリセットをした。
3.本来強制開放してはならないローディングアームのオーバーフロー防止弁を強制開放した。
対処 ローリー運転手の救急車での搬送した。
対策 1.ローリー輸送会社は従業員(含むタンクローリー運転手)へのタンクローリー荷積み方法の操作手順書にもとづく再教育の実施と、現場での異常警報システム作動時の計器室係員の報告・連絡の徹底の指導を行う。
2.ローリーステーションの運用会社は自社従業員への異常警報システム管理の再徹底(現場での安全確認なしでのリセットの禁止、ページングを通してのローリー運転手との対話確認)およびローリー運転手への安全教育実施の強化を行う。
 ページング: 計器室と現場運転員、あるいは現場運転員どうしで連絡が取れるように、スピーカーと携帯式無線電話を組み合わせたローカルな連絡システムのこと。
知識化 1.人の無意識下の行動は、その人自身では、なかなか修正できないことを示している。また、自分の間違った判断・行動が他人の間違った行動の結果により助長されるとことがある。
2.2者の接点で起こった事故である。また、見方を変えると、状況が変わるところ<貯蔵から輸送への接点>で起こっている。変化している状態では、定常運転あるいは静的な状態に比べ一般的に事故が起きやすい。したがって、ヒューマンエラーが減らせるような不断の教育が重要になる。
3.ソフト面でどんなに優秀な設備を導入しても、ヒューマンエラーには対処できないことがある。ヒューマンエラーがあっても、事故に継がらないハード面の対策が時には必要であろう。
背景 1.思いこみ、思い違いのヒューマンエラーの典型例である。  
2.運転マニュアルの不備が考えられる。事故後の対策の中に”現場の安全確認をしなければリセットを禁止”とか、あるいはタンクローリー業者には”現場での異常警報システム作動時には、すみやかに計器室係員への報告・連絡の徹底について指導”が記載されている。これらは当然、施設の運用以前に運転マニュアルで徹底されねばならない事項である。
3.オーバーフロー弁の構造にも問題があると感じる。機械式オーバーフロー防止弁が作動し、積込みが停止された場合でも、計器室でのオーバーフロー状態の解除がなくとも、ローディングアームに設けられたハンドルを操作することでオーバーフロー防止弁を一時的に開の状態にできる。誤操作時の事故になる。
よもやま話 ☆ ”自動警報システムからの情報を無視して事故に至った。事故原因としては古典的な例の一つである”と簡単に片付けられがちな例である。しかし、このような事故の裏にシステムへの信頼度の問題が内在することが多い。事故報告書によれば、誤作動が起こった確率はある期間の実績で約0.3%である。ただし、誤作動にあった当事者からすると、確率はもっと高い。誤作動に出会った瞬間は100%の確率になる。誤作動にあった作業者が、誤作動ではない本当の異常警報に再度遭遇した場合、”またか”と思う気持ちは当然持つであろう。誤作動が起こった時にすぐ対応を取り、原因や確率について、即座に関係者に周知徹底しシステムへの不安感、疑問視を除去する。このようなフォローアップが必要なのではないかと感じた。
☆ 結果としてヒューマンエラーと片付けられている事故の中にも、このような対処を取っておけば、防止できたものがあるであろう。
データベース登録の
動機
警報を勘違いして無視した事故例
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、作業者不注意、誤判断、誤認知、勘違い、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不良行為、規則違反、安全規則違反、二次災害、損壊、漏洩、身体的被害、負傷、1名軽傷
情報源 川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1995)
負傷者数 1
物的被害 ガソリン約1~2L
マルチメディアファイル 図2.積込み操作状況図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)