失敗事例

事例名称 トルコ航空DC-10のエルメノンビル(パリ郊外)森上空での空中分解事故
代表図
事例発生日付 1974年03月03日
事例発生地 フランス、パリ郊外
事例発生場所 トルコ航空DC-10型機後部貨物室ドア
事例概要 トルコ航空のDC-10がパリで給油等のために立ち寄った後ロンドンに向けて離陸後、10分程度で後部貨物室のドアが外れて吹き飛びその近傍の座席の6人が機外に吸い出された。それに続く貨物室の急減圧と客室の圧力差のために客室床が抜け舵面制御用のすべての油圧配管等を切断したため制御不能に陥り、ドア分離の71秒後に墜落し、すべての乗員乗客346名が死亡した。
事象 ドアロックのラッチ機構の欠陥のため内外圧力差によってドアが開いたことが原因であるが、その設計不良が第一次的要因である。図1はDC-10のドアロック機構を説明したものである。ロック機構の左側が機内側、右側が機外である。正常なロック状態の場合はトルクチューブ及びリンクが中心線より左側に返っているため機内圧によってドア全面に外側に向かう力が作用する場合は、より安定したロック状態が得られる。一方、同図右側の半ドア状態の場合はトルクチューブなどが中心線より右側にあるため(内外)圧力差が生じた場合ロック状態が一層不安定となり、結果として圧力差に比例した大きな圧縮力がラッチアクチュエータに作用し、アクチュエータを機体構造に結合している取付けボルトを剪断破壊させ、ドアが吹き飛んだものである。ドアを無理矢理閉めた場合には半ドア状態でもコックピットのドアの開放警告ランプが消えるためコックピットではロックがいずれの状態であったのか判断することはできなかった。
経過 本事故に関してはこれより約2年前の1972年6月12日にほぼ同様の事故がデトロイトを発しバッファローに向かっていたアメリカン航空のDC-10でカナダのオンタリオ州ウィンザー上空で発生していた。その折は幸い一部の油圧系統が生き残ったため、帰還に成功した。
アメリカン航空の事故調査結果から、ドアロックシステムの設計不良が明らかになったためFAA(連邦航空局)はその対策として以下の勧告を整備情報(Service Bulletin : SB)として行った。
(1) ドアロック状態を確認するための点検窓の設置
(2) ロック無理閉め防止用補強板の追加
さらに、貨物室と客室の間に生じ得る圧力差によって床が抜けないようベントホール(通気孔)の大きさと数を増した上で孔部を補強しその強度確認を行うこと、ならびに制御用のケーブル、配管を一ヶ所に集中させないよう配置を再検討することがメーカーに対して勧告された。
しかしSBは拘束力の弱い勧告であり、また通気孔対策等については改修経費がかさむことなどの理由でメーカーから拒否され、トルコ航空機においても点検窓(小さすぎて役目を十分果たし得ない)の取付けを除いていずれも実施されてはいなかった。
原因 ドアロックのラッチ機構の欠陥のため内外圧力差によってドアが開いたことが原因であるが、その設計不良が第一次的要因である。また、本事故の後に貨物室ドアロックに関して機体に設置された作業者用の警告表示も目立ちにくいものであった上に英語を理解しないフランスの地上作業員にとっては何の意味も持たなかったことが指摘された。
以上のような背景から、ドアロック構造の設計不良が明らかとなったにもかかわらず、厳格な改善命令を指示し得なかった監督官庁ならびに不具合対策に積極的に取り組まなかった航空機メーカーの責任も問われた事例であると言える。
対策 (1) 安全弁の大きさを機体の体積に見合ったものとすること
(2) ドアラッチ機構にフェールセーフ性を持たせること
(3) フェールセーフ性のある制御システムであっても同一ルートとさせないこと
知識化 安全確保のためには関係当局に毅然とした姿勢で臨むこと
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、運営の硬直化、勧告の無視、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、リスク認識不良、無知、知識不足、勉学不足、不注意、注意・用心不足、作業者不注意、取扱い不適、手順の不遵守、手順無視、操作手順無視、貨物室ドア、使用、輸送・貯蔵、航空輸送、破損、破壊・損傷、航空機ドア、破壊・破断、破損、大規模破損、墜落、社会の被害、人の意識変化、行政・企業不信、利用客の減少
死者数 346
負傷者数 0
マルチメディアファイル 図1.DC-10の後部貨物室ドアラッチ機構
図2.トルコ航空DC-10のエルメノンビル(パリ郊外)森上空での空中分解事故イベントツリー図
図3.トルコ航空DC-10のエルメノンビル(パリ郊外)森上空での空中分解事故フォールトツリー図
分野 材料
データ作成者 寺田 博之 ((財)航空宇宙技術振興財団)
小林 英男 (東京工業大学)