失敗事例

事例名称 FRP製回収ドレンタンクの接着剤の熱劣化による破裂
代表図
機器 貯槽/胴板下部マンホール部/耐食層:ノボラック型ビニルエステル樹脂、強化層:不飽和ポリエステル樹脂/80KL,3800φ×7700H、板厚:下部12mm、上部:6mm
事例概要 損傷発生時の状況80KLドレンタンクの胴板下部が液圧によりマンホール部を起点に全周にわたって破壊し、破片が吹き飛んでダルマ落としのように落下した。その際タンク内の熱水が飛び散ったが幸い付近に人がおらず惨事を免れた。本槽は厚さ50mmの保温材(発泡ポリウレタン)を挟みこむ板厚3mmの外板で槽全体が包まれる二重構造になっていた。内容液は80~90℃の熱水でサイレンサーによる蒸気吹きこみが行われていた。本槽は使用歴約16年で、直近の定期検査で内面の耐食樹脂層の表面に微細なクラックが認められ、近い将来更新する予定だった。
事象 (1)胴板とマンホール開口部の補強板間の接着剤が劣化し、接合面の約50%が剥離して褐色に変色していた。(2)槽内面の耐食樹脂槽には微細なクラックが多く見られ、樹脂の経年劣化の進展が明らかに認められた。(3)破片および破面の観察結果、破壊の起点はマンホールの直上下部と判断された。
経過 (1)胴板とマンホール開口部補強板間の接着剤が劣化し部分的に剥離した。(2)液面の上下によって変化する液圧により周方向に作用したくり返し応力により、マンホール直上(12時)方向および直下(6時)方向に疲労による初期クラックが発生した。(3)これを起点に満水時の最大液圧により縦方向に伝播したクラックが高さ約1mのところで、フィラメントワインディング法によって配向されたガラスロービングに沿う形で円周方向に走り、下部全周が吹き飛んだ。
原因 接着剤の熱劣化
対策 (1)高温で使用するFRPタンクの強化層には耐熱的に優れているビスフェノール型ビニルエステルを使う。(2)保温材カバーで槽全体を包む構造はタンク外面の強化層の劣化観察を不可能にするので止める(主要部分の観察用の窓を設置するなど)。(3)純水、アルカリ、高温など、FRPの強度低下が起こりやすい環境では耐用年数を8~10年に制限する。(4)耐食樹脂層の微細クラックは強化層に達する前にこまめに補修する。
知識化 FRPの破壊は一旦発生すると必ず大規模破壊に進展することを認識し、保全の徹底および耐用年数の見極めに留意する。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、狭い視野、発見遅れ、構造不良、保温材カバー、観察阻害、使用、保守・修理、点検、マンホール周囲補強板、接着剤、熱劣化、剥離、破損、破壊・損傷、破壊、破断
情報源 北村義治他、「防蝕技術」(第2版)、p.219(2002).
分野 材料
データ作成者 鈴木 紹夫 (すずき技術士事務所)
小林 英男 (東京工業大学)