注:本記述は2007年以前の分析で得られた情報を元にしており, それ以降に判明した事実や新たな知見は反映されておりません.
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事例ID
CZ0200718

事例名称
六本木回転ドア事故

事例発生日付
2004-03-26

事例発生地
東京都港区六本木

事例発生場所
大型複合施設高層ビル、大型自動回転ドア

事例概要
 東京都港区六本木の大型複合施設「六本木ヒルズ」内の森タワー二階正面入口で、母親と観光に訪れていた6歳男児が三和タジマ製の大型自動回転ドアに挟まれて死亡した。回転ドアの重量が重く、停止動作開始後に停止するまでに時間がかかること、および男児がセンサの死角に入り緊急停止が働かなかったことが主な原因である。

事象
 東京都港区六本木の大型複合施設「六本木ヒルズ」内の森タワー二階正面入口で、母親と観光に訪れていた6歳男児が三和タジマ製の大型自動回転ドアの回転するドアとドア枠の間に頭部を挟まれた。病院に搬送されたが約2時間後に死亡した。

経過
 母親と6歳男児は、単身赴任中の父親に会うために上京し、当日は母親と二人で大型複合施設「六本木ヒルズ」森タワーを観光のため訪れ森タワーの二階正面入口に着いた。
 午前11時30分頃、男児は母親より先に森タワーに入ろうと小走りで正面入口の三和タジマ製の大型自動回転ドアに入りかけ、回転するドアとドア枠に頭部を挟まれた。
 後からきた母親と近くにいた人たちが、ドアを逆回転させて助け出したが、すでに男児の意識はなかったという。その後病院に搬送されたが、約2時間後に死亡した。
 事故当時は男児の反対側のスペースに人がいたため、ドアは3.2回転/分、周速にすると約80cm/秒の速度で回転していた。この回転速度はより多くの人の出入りを可能にするための処置で、本回転ドアの最高速度であった。また、天井のセンサは、同様の理由で感知距離を1.6mからさらに40cm短くしていた。
 事故後、刑事訴訟で森ビル側の管理過失および三和タジマの製品製作上の過失が認定された。

原因
  1. 回転ドアの回転部が重すぎた
     回転ドアは回転部の重量が増すほど、回転の慣性力が大きくなり、挟まれたときの危険度が増す。本回転ドアのオリジナルのブーンイダム社(オランダ)の回転部の重量は1トン以下であった。それが3倍近い2.7トンの重量となっていた(背景欄参照)。このオリジナルからの危険性の増大について、ドアメーカ、ユーザ(ビルオーナー)、ビル建設会社ともに気付いていなかった。
  2. センサーに死角があった
     ドア天井のセンサーの感知距離の設定が地上から約120cmに対して、男児の身長が117cmであり死角に入ってしまった。またドア枠には地上15cmの位置に真横に赤外線センサも設置されていたが、頭から男児が駆け込んだため、足を感知しなかったと推定される。
  3. 制御安全への過信
     危険をセンサで感知して緊急停止させる「制御安全」に頼る設計となっていた。しかし、事故当時回転速度が最速に設定されていたため、実際にはセンサで緊急停止がかかっても、慣性力で完全に停止するまでには25cmも動くようになっていた。
  4. 安全管理の欠如
     森タワーが2003年4月25日にオープンしてからこの事故までの1年弱の間に、大型回転ドア12件、小型回転ドア10件の事故が発生していた。しかも大型回転ドアのうち7件はいずれも8歳以下の子供が体を挟まれたもので今回と類似の事故であったが、駆け込みを防止するための簡易ポールを立てるなどの簡便な対応で終わっていた。


対処
 六本木ヒルズ森タワーでは、事故後ただちに大型回転ドアの使用を中止した。
 1ヶ月後には、同ビルの大型自動回転ドアをすべて撤去する方針を固め、逐次実施した。

対策
 国土交通省と経済産業省は、3ヵ月後の2006年6月に自動回転ドアの事故防止に関するガイドラインを策定した。最も重視したのは回転速度で、大人がゆっくり歩くスピードである65cm/秒以下に設定した。こうすることで、歩行者が余裕をもってドアを通過できるだけでなく、緊急時にドアが停止するまでの距離を短くすることができる。その他、子供連れや高齢者、障害者に配慮して回転扉以外のドアを併設すること、センサの死角をなくすこと、衝撃緩和のための緩衝材を入れるなどの対策を盛り込んで「多重な安全対策」による事故再発防止を目指した。
 2008年3月4日、三和ホールディングス(三和タジマの親会社)は、利用者が扉に挟まれても衝撃が緩和される改良機種を発表した。扉に人が挟まれたときに折れ曲がる「折れ曲がりドア」が付いている(図2)。

図2(クリックで拡大)


知識化
  1. 大事故が起きないと本格的な対策はとられない。 本事故でも、死者が出る本事故の以前に軽度の事故が発生していた。まさに「ハインリッヒの法則」がそのまま当てはまる。予兆のうちに問題の芽を摘むことが大切である。
  2. 安易な対応は後でツケがまわってくる。
  3. 技術の本質をきちんと伝達することが大切である。
     要求の変化への対応によって、危険が潜在してくることがある。


背景
 本回転ドアのオリジナルのブーンイダム社(オランダ)の回転ドアは、フレームも回転部も軽いアルミ材料が使われており、回転部の重量は1トン以下であった。それが「風圧が強くても耐えられるように」「見映えをよくしたい」という要求から、骨材がアルミから鉄に変更され、ステンレス板で飾られた結果、当初の3倍近い2.7トンの重量となってしまっていた。ヨーロッパで発達した回転ドアが日本で異なったものに変わっていったのは、「見映え」だけでなく、求められる機能が異なっていたものと思われる。ヨーロッパでは、外気と室内の温度差を確保することが最も重要な機能であるが、日本では高層ビルなどで内外の圧力差を維持することが求められた結果(高層ビルでは冬期はビルそのものが煙突のようになり、建物内外の温度差で大きな圧力差が発生する。そのため、地上階で一般の扉が開くと大量の冷たい外気が流入する)、元が同じであるが異なるものに発達した。日本に伝わるときに大切なことが忘れられ、余計なものが加わったと考えられる(図3)。

図3(クリックで拡大)


後日談
 現行の警察・司法制度のもとでは、事故の責任者を追及するために、根こそぎ証拠物件を持ち去ってしまい、事故の再発防止や未然防止のための真の原因が明確に出来ない問題を抱えている。2004年6月、このような問題への諌言もあって、「真の原因」を追求するための、畑村洋太郎(失敗学会長)の「ドアプロジェクト」が発足した。その意義に賛同する多くの企業や個人が手弁当で参加し、大掛かりな実験が行われた。
 その結果、回転ドアの最大8500ニュートン(N)以上という「衝撃力」の大きさが明らかにされた(子供の頭が破壊される力は約1000N、大人でも約2000Nと言われている)。また、「技術の来歴」の見方から背景に述べたことを明らかにした。

よもやま話
 エレベータのドアやスライドドアの設計者のなかで「ドアは軽くてゆっくり動かなければ危険」は常識のようである。安全性を保つ基準としてドアの持つ運動エネルギー(「ドアの重さ」×「ドアの速さ)が10ジュール(J)以下となっている。今回の大型回転ドアが動くとき、10Jの何倍ものエネルギーが発生していた。なお、ジュール(J)はエネルギーの大きさ、ニュートン(N)は力の大きさの単位で、1Jは1Nの力が働いて物体を1m動かす時のエネルギーの大きさである。1kgの物体にかかる重力は約9.8Nだから、10Jは1kgの物体を1m持ち上げるエネルギーに等しい。

情報源
畑村洋太郎、飯野謙次、失敗年鑑2004、特定非営利活動法人失敗学会、PAGE57-66
畑村洋太郎、だから失敗は起こる、NHK出版、PAGE14-28、(2007)
日本経済新聞、2008-03-04

死者数
1

全経済損失
大型回転ドアの撤去

分野
その他

データ作成者1
張田 吉昭 (有限会社フローネット)

データ作成者2
畑村 洋太郎 (工学院大学)