失敗事例

事例名称 中国四川大地震
代表図
事例発生日付 2008年05月12日
事例発生地 中華人民共和国四川省ブン川県
事例発生場所 山間部(北緯31度01分5秒、東経103度36分5秒)
事例概要 中国四川省北部のブン川県の震源で発生したM8.0の地震は、死者6万9,197人、行方不明者1万8,341人、負傷者は37万人を超える大災害を引き起こした(図2)。この地震で、中学校が倒壊し、900名の生徒が生き埋めになり、震源地付近では土砂崩れによる堰止め湖の決壊の恐れから20万人以上の住民が避難を余儀なくされた。
事象 2008年5月12日14時28分(日本時間12日15時28分)、中国四川省北部のブン川県を震源とするM8.0の地震が発生した。中国政府は2008年9月4日に、死者6万9,197人、行方不明者1万8,341人と発表した。負傷者は37万人を超えた。
被災したビルの多くは耐震化が施されておらず、コンクリートの下敷きになり死亡する、生き埋めになるなど多大な被害が発生した。また、地震に伴う土砂崩壊により計391カ所の堰止め湖が出現し、鉄道、道路、水道などのインフラが分断された。
震災地内には、放射性物質が保管されていたが、最終的な処理は不明である。また、この地震の影響で8月に控えた北京オリンピックの聖火リレーが一部中止、延期された。
被災地域の都江堰市、綿竹市は、日中の最高気温が30℃を超えており湿度も高く、綿竹市では、目がかすむほど粉塵が立ちこめ、異臭が漂っていた。被災当初は、テント、毛布、薬、重機類が不足したが、四川省政府の災害援助や海外からの援助により避難所や防疫、ボランティアなどの救援体制が整えられた。仮設住宅は約3ヶ月ですべての被災者が入居した。
経過 震源は、中国四川省北部の成都市から北西に約150km離れたアバ・チベット族チャン族自治州のブン川県付近であり、地震の揺れは約1,500km離れた北京市にも到達し、勤務中の社員らが外に避難するに至った。
成都市の国際空港は閉鎖され、被災地の大部分で電気・ガス・水道が止まり、道路網、鉄道網が寸断されて、被災地まで行けない状況になった。また、都江堰市の中学校で校舎が倒壊し、生徒約900人が生き埋めになり、少なくとも50人が死亡した。成都市に進出した日本企業は、トヨタ、日立などが生産停止、イトーヨーカ堂は、成都市のスーパー3店舗で営業を停止した。
温家宝首相は、即日現地入りし、災害対策本部を設置し、被害状況把握のために人民解放軍や武装警察の約1万人の部隊を現地に派遣し被災者の対応にあったが、山間部の集落は、援助部隊を乗せたトラックが素通りするなどの状況で、水や食料が十分に行き渡らない事態が生じた。
JAXA(独立行政法人 宇宙航空研究開発機構)の地球観測衛星は、地震により四川省北川県で大規模な斜面崩壊が発生し、長さ1kmに渡る地震湖が形成されていることを観測した。その後、人民軍の必死の作業により、土砂ダムは崩壊を免れたが、一時的に約24万人が避難した。
中国政府は、20日に放射性物質がビルの下敷きになっていることを発表し、放射性物質50個のうち15個が未回収で中国政府は詳細な場所などは明らかにしていない。
原因 中国地震局工程力学研究所の発表によると、観測された揺れの強さを表す加速度は最大957galで、阪神大震災のときの818galを上回った。この地震の余震は、龍門山断層帯に沿い主震の震央から北東方向約 300km に渡り帯状に分布している。発震機構は、ほぼ南北走向・東傾斜の節面と北東走向・西傾斜の節面とからなる逆断層型で、後者が余震分布と調和的であることから、今回の地震を起こした断層面であると考えられており、最大3mの垂直ずれを伴う北西傾斜の地震断層が出現した。この断層帯は、75年に渡り顕著な活動がなく「死んだ断層」と考えられていたことが、中国の過去の地層調査や歴史文献の記載などからわかった。
人的被害や建築物の被害が大きかった原因は、病院や学校の多くが補強鉄筋のないブロック積みや、プレキャストの柱や梁とブロック積みのかべを直接接合するなど、地震の横荷重に弱い構造であったこと、地元住民の防災意識が低く、避難訓練などが全く行われていなかったことなどである。
対処 5月12日の地震発生後、胡錦濤主席が国を挙げての救出を呼びかけ、2時間以内にM7以上の大地震応急マニュアルを発動して国務院地震対策本部を設置し、4時間以内に対策本部長が被災地入りし、地方の救援力を超えた巨大災害だとして5時間以内に軍隊の出動を要請しており、10時間以内に震災地の国家現地対策本部会議を開催した。温家宝首相は、即日現地入りし、災害対策本部を設置するとともに、人民解放軍は直ちに被害状況把握のための部隊を派遣した。同日夕方になって、国営メディアは死傷者多数と報道した。
13日になって、都江堰市の中学校校舎の倒壊現場では、クレーン車8台でがれきの取り除き作業を続けて、数十人の生徒を救出したが、50人あまりの死亡が確認され、まだ生き埋めになっていると報道した。政府は、13万人以上の兵士他を動員し、道路分断や自然災害で近づけない所は、パラシュートにより救援隊を降下させて対応した。しかしながら、山間部の集落では、援助部隊を乗せたトラックが素通りするなど、援助物資が行き渡らない所も発生した。
同日、日本のNPOが現地に人道援助派遣を申し出た。中国政府はこれを断ったが、災害状況が分かるにつれて、15日に日本からの人道援助を受け入れると発表した。また、16日には韓国、ロシア、シンガポールからの援助部隊の受入を表明した。
地震に伴う土砂崩壊で形成された堰止め湖13カ所は、爆破による排水路の確保で対応したが、貯水量が多く、流出時の洪水が懸念されたために、下流の住民が避難を余儀なくされた。また、震源地から90kmにある北川県では、幹部が現在の場所で復興することが困難なため、県の中心部を移転して再建する構想を示した。
対策 ・中国政府は、阪神大震災を経験した兵庫県に対し、仮設住宅と避難所の運営、震災遺児と老人の世話、被災者の心のケア、ボランティア制度づくりなどに関する阪神淡路大震災の関係資料の提供を依頼した。また、被災者の市民同士の交流などを提案した。
・都市部の復興は、500分の1地形図に被災家屋を標記する作業を行い、建築安全評価チームの評価結果に対して、C類(中度損壊)、D類(厳重損壊)、E類(全壊)と評価された建物地図作成し、これに基づいて再建計画を策定している。
・地震で被害を受けた農業用地の被害調査と調整や区画整理、仮設住宅用地に転用する農地の補償と代替用地の準備、農村地域の住宅の耐震補強と耐震基準作成、農民の受け入れやすい耐震住宅の開発、行政区の避難場所づくり、学校など公共施設の安全、応急仮設住宅と都市復興との調整、産業復興問題、就職、少数民族の住宅地域の再建と文化保全などの課題が取り上げられた。
・今回の四川大地震では、気象情報の正確さが被災者の人命救助や二次災害防止を左右することから、国家気象災害予防基本計画策定を検討することになった。
知識化 ・耐震化の遅れが大きな被害を招いた。日本は、この事実を踏まえて、人的被害を最小化し、二次災害を防止してライフラインの維持を確実にできる耐震化を促進すべきである。
・被災地周辺の都市で避難訓練は実施されてことがなく、日本でも災害に備えた地域コミュニティによる防災(UN-CBDM)意識の向上が必要である。
・災害時のは、医療チームやボランティアにより、被災者への心のケア、に対する組織的なボランティア活動を組織化し対応することが必要である。
・緊急地震速報システムの設置や地震の事前予知に関する研究が重要である。
背景 四川大地震の震源は、龍門山衝上断層と考えられている。この地域は、インドの衝突によってそびえるヒマラヤの北にチベット活構造区が広がり,活断層で多くの地震が発生している。2001年の昆侖地震の際には 400kmにもわたって地表地震断層が出現した。
四川盆地とチベット高原との地形境界をなす龍門山衝上断層は、3本の断層と付随する摺曲からなり、幅は約 60キロ、収束速度は年間4~6mm程度である。また、四川盆地 の南西側には康定断層帯がほぼ南北に延び、チベット高原の東縁を限っている。この断層帯は、長さ1400キロに及ぶ横ずれ断層で、青海省から四川省を通って雲南省まで伸びる。ここでは多くのマグニチュード7以上の歴史地震が発生している。左横ずれレートはおよそ年間10ミリ程度と、龍門山衝上断層よりも活動度は高い。今回の震源付近で発生した過去の主な地震を以下に示す(図3参照)。
・1913年12月21日:M7.0、死者1,314、負傷者1,530
・1917年7月31日:M6.8、死者1,879、負傷者582
・1925年3月16日:M7.0、死者5,808、負傷者8,303
・1933年8月25日:M7.5、死者6,865、負傷者1,925
・1970年1月5日:M7.8、死者15,621、負傷者26,783
・1973年2月6日:M7.6、死者2,199、負傷者2,743
・1974年5月11日:M7.1、死者1,541、負傷者1,600
後日談 四川大地震の発生から2年が経過した2010年5月に10日に、被災した観光都市、四川省都江堰市と成都市を約30分で結ぶ高速鉄道が一部開通し、政府の復興プロジェクトの完成が相次ぐ。
四川省政府が3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で発表した復興状況では、被災民向けの恒久住宅は160万戸強と計画の9割が完成した。都江堰など都市部での計画は遅れているが、入居のメドが見えてきている。
よもやま話 四川大地震で、震源地と四川省省都の成都市の間にあり、世界文化遺産に登録されている古代の水利施設「都江堰(とこうえん)」の人工中州の上流部に亀裂が入ったほか、水門管理棟と発電機棟が倒壊した。この堰は、2,300年以前に、河川の氾濫を制御するために建設されたもので、武田信玄の「信玄堤(和田一範著)にも取り上げられている壮大な構造物で、早急な復旧が成された。また、世界自然遺産に登録されている美しい湖で有名な観光地、九寨溝も山崩れ、土石流、地面の陥没などが発生したが、死傷者は出ていない模様。
日本からの観光客も多く、早急な復旧が望まれる。
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、破損、大規模破損、二次災害、環境破壊、身体的被害、人損、社会の被害、社会機能不全、起こり得る被害、潜在危険
情報源 http://kotobank.jp/word/四川大地震:朝日新聞出版
DRI Survey Report:http://www.hemri21.jp/fukkoushien/pdf/10.pdf
http://www.bousaihaku.com/bousai_img/disaster_report/china_shisen/
china_shisen_1.pdf
http://www.adrc.asia/events/shisen_photo/data/ADRC,DRI20090602.pdf
http://www.geosociety.jp/hazard/content0025.html:日本地質学会
http://www.gupi.jp/link/link-a/sichuan.html
http://www.miyamotointernational.com/Sichuan/index.php
http://www.bousai.jiji.com/info/china/08060301.html
:防災リスクマネジメントWeb
http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/1980/11/80_11_05.pdf
http://www.geog.or.jp/journal/back/pdf112-4/p489-520.pdf
http://www.jma.go.jp/jma/press/0805/13a/20080513.pdf
日本経済新聞2008.05.13
朝日新聞2008.05.21
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080512-2403370/
news/20080514-OYT1T00542.htm
http://www.scio.gov.cn/xwfbh/xwbfbh/wqfbh/2008/0904/
200905/t308985.htm
http://j1.people.com.cn/94475/94700/6474445.html
http://j.people.com.cn/94475/94700/6473121.html
死者数 69197
負傷者数 374640
物的被害 ビル・家屋損失(4,140億元)、インフラ(2,000億元)、農業・工業・サービス(2,080億元)など
被害金額 約99,100億元(被害額)、17,000億元(3年間の復興投資費用予測)
全経済損失 四川省で約2兆400億元
マルチメディアファイル 図2.四川大地震震央
図3.過去の被害地震の震央分布
備考 事例ID:CZ0200903
分野 その他
データ作成者 福島 晴夫 (リバーベル株式会社)
畑村 洋太郎 (工学院大学)