失敗事例

事例名称 中越沖地震による原子力発電所の火災
代表図
事例発生日付 2007年07月16日
事例発生地 新潟県柏崎市
事例発生場所 原子力発電所
事例概要 新潟県中越沖を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生。新潟県と長野県で最大震度6を観測した。震源近くの原子力発電所の施設(図2)に火災の発生など甚大な被害をもたらし、原発の地震に対する安全性への問題提起となった。なお、原発以外に、この地震の液状化現象による家屋倒壊で、11名の犠牲者が出た。
事象 2007年7月16日の10時13分、新潟県中越沖を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生した。震源地から約16kmの東京電力柏崎刈羽原子力発電所3号機変圧器付近での火災が発生した。約2時間後にようやく鎮火した(図3、図4)。
経過 2007年7月16日の10時13分、新潟県中越沖を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生した。以下、今回の地震で特徴的であった出力821万KWの原発の火災関連を中心に記述する(図5)。
震源地から約16KMの柏崎刈羽原子力発電所で稼働していた同発電所の発電機のうち、2号機、3号機、4号機および7号機は、地震により自動停止した(1号機、5号機および6号機は定期検査のため停止中)。
10時15分、パトロール中の2号機補機捜査員が、3号機タービン建屋外部の変圧器からの発煙を発見し、3号機当直長に連絡、当直長の指示により、社員2名と現場作業員2名で初期消火活動を開始した。
10時15分頃、3号当直長が119番通報を開始するがなかなか繋がらず、発電所緊急対策室のホットライン(消防署への通報・緊急連絡線)は、地震により対策室入口扉が開かず、活用できなかった。
10時27分、ようやく消防署に繋がった時「地震による出動要請が多く、到着が遅れるので、消防隊到着まで自衛消防隊で対応して欲しい。」との回答があった。
防火衣も着用せずに消火に当たった4名は、水による冷却の目的で消火栓から放水したが、屋外に敷設されているろ過水から消火設備間の配管破断により放水量が少なく、消火が思うように進まなかった。
10時30分頃、火災を起こした変圧器の油が燃え始めたため、危険を感じた4名は安全な場所に退避し、消防署の到着を待った。
11時32分、消防署による放水が始まり12時10分頃に鎮火した。
この地震により、6号機において、微量の放射能を含んだ水が外部に漏えいした(1年間に自然界から受ける放射線量2.4ミリシーベルトの1億分の1程度)(新潟県調査では人工放射性物質は、周辺においては検出せず:7月18日、新潟県発表)。
7号機においても主排気筒より放射性物質を検出(1年間に自然界から受ける放射線量2.4ミリシーベルトの1千万分の1程度)(7月20日以降、検出なし)。
原因 1.設計時の想定加速度を超える地震動
マグニチュード6.8の地震の震源地に近かったため、想定加速度(設計加速度)を超えた地震動であった(図6)。3号機タービン近くの建屋上部での観測値は、東西方向2,058ガルで設計値834ガルを大きく超えていた(図7)。そのため、3号機の変圧器付近の不等沈下によって、火災が発生した(図4)。
2.火災の消火に時間を要した原因
・消火用の配管が、地盤の不等沈下で破断し消火作業ができず、必要なときに機能しなかった。
・自衛消防隊に化学消防車が配備されていなかった。
・原発と消防機関を繋ぐ発電所緊急対策室のホットラインが機能しなかった。
・地震と火災への対応は別々のマニュアルとなっており、大規模地震による火災発生を想定した対応策(マニュアルや訓練など)が不十分であった。
対処 1.7月16日の対応
1)地震発生を受け、原子力安全・保安院災害対策本部を設置。
2)経済産業大臣を長とする経済産業省平成19年新潟県中越沖地震非常対策本部を設置。
3)柏崎刈羽原子力発電所において、基準地震動を超える地震動が観測されたことから、東京電力に対し、地震観測データの分析と安全上重要な設備の耐震安全性の確認と報告を指示。
4) 経済産業大臣が東電社長を呼び、以下の3点を指示。
 a.自衛消防体制に不備があったことの原因究明と対策の報告。
 b.放射性物質の漏えいの報告が遅れたことの原因究明と対策の報告。
 c.柏崎刈羽原発の安全が確認されるまで、運転の再開を見合わせ。
5)さらに、上記のa、bについては、16日中に原子力施設を有する電力会社等に対しても指示。
2.事故直後、7月17日、23日および25日
原子力安全・保安院による調査実施。
3.国際対応
1)7月18日、27日に外国特派員協会に対し、地震による刈羽原発への影響、原子力安全・保安院の対応を説明。
2)7月20日、国際原子力機関(IAEA)からの刈羽原発への調査申込に対し歓迎する旨回答、7月23日から調整開始。
4.情報提供
1)7月16日以降、原子力安全・保安院から、毎日夕刻に刈羽原発の状況等について説明するプレスレクチャーを継続。
2)7月24日、新潟県知事が経産省大臣の要請を受け、地元において1日1回を目途の情報提供を決定。
対策 2007年7月29日、原子力安全・保安院は電力会社に下記の対策を指示。
1.自衛消防体制の強化
・火災発生時に十分な人員を確保できる体制の整備
・タンク付き消防車・化学消防車等の配備
・消防に対する専用通信回線の確保

2.迅速かつ厳格な事故報告体制の構築
・夜間・休日における放射能測定要員の常駐化
・参集方法の改善、衛星携帯電話や小型無線機等の導入・増強

3.国民の安全を第一とした耐震安全性の確認
・各原発での中越沖地震と同様の地震を想定した安全性確認
新耐震指針に基づく確実な、しかしながら迅速な耐震安全性評価(バックチェック)の実施
また、2008年2月1日になって総務省は、通産省に対し以下を第一次勧告とした。
1)国による原子力発電所の被災状況等の迅速かつ的確な把握と周辺住民等への安全・安心情報の迅速かつ的確な提供等
2)原子力発電所の災害応急対策上重要な施設等の地震対策
また、今回不等沈下で使用できなかった消火用配管については、従来の消火用配管の地中埋設を改め、地盤と縁を切るか、地上配管にするなどで、地震による配管破断を防止した。
知識化 1.設計値はあくまでも人が仮定したもので、自然は容易にその値を超えてしまう。
2.考えられることは、起こる危険性があるとの考え方が大切である。特に原発において、地震で火災が発生した場合の対応は、被害を危機的なものにしないためにも、非常に重要といえる。
3.原発における地震の被害は、放射能漏れ、火災、クレーンの破損など多岐にわたり、長期の稼働停止を余儀なくされる。
背景 日本は1960年代からエネルギー源として中東から安価な石油を大量に輸入しており、1973年度にはエネルギー供給の76%を石油に頼っていた。しかし第4次中東戦争による1973年の第一次石油ショックで、エネルギー供給の安定化のため、石油に代わるエネルギーとして原子力、天然ガス、石炭の導入を推進。その結果、2006年度には国内の総エネルギーに対する石油の比率が44.1%と大幅に改善され、その代替として石炭22.2%、天然ガス16.5%、原子力11.7%とエネルギー源の多様化が図られた(図8)。発電電力量(2005年度)についてみれば、原子力31.0%がトップで、石炭25.7%、LNG23.8%、石油9.5%、水力8.3%となっていた(図9)。また、過去の原発事故による原発反対一辺倒から、地球温暖化防止のためのCO2排出量削減の要求もあって、クリーンな原発が見直され始めていた。
後日談 2009年2月4日、柏崎市は刈羽原発7号機に対して、系統機能試験の結果、軽油タンク、タービンの消火設備など周辺設備の安全性が保たれていると判断して、消防法に基づく使用停止命令解除通知を出した。国の審議の後、新潟県など地元自治体の了解を得て、起動試験計画書に基づいて、原子炉を起動する。残る6基も、安全性確認後に解除の予定。原子炉を起動後も各種試験を実施し、営業運転にはいるのは4月以降の公算が大きいという。
ところが、2009年3月5日午前8時55分ごろ、刈羽原発1号機の原子炉建屋地下5階にある「原子炉隔離時冷却系ポンプ室」で火災が発生、消防が約30分後に消し止めたが作業員1名が顔をやけどし、病院に搬送された。火災原因は調査中であるが、原因によっては地元了解の判断に影響を与える可能性もあると思われる。
よもやま話 本地震では本火災の他、6号機原子炉建屋天井クレーン駆動軸の損傷、6号機からの微量の放射能を含んだ水の外部への漏えい、7号機主排気筒からの放射性物質の検出、など原発の各種被害のほか、原発以外にも、主に液状化現象による建物の被害とともにライフラインの途絶、土砂災害の危険による避難指示・勧告により震源地付近の柏崎を中心にピーク時で約12,000名以上が避難所生活を余儀なくされた。
シナリオ
主シナリオ 未知、未知の事象発生、価値観不良、安全意識不良、計画・設計、計画不良、非定常行為、無為、不良現象、熱流体現象、破損、破壊・損傷、起こり得る被害、潜在危険、社会の被害、人の意識変化
情報源 原子力安全・保安院、新潟県中越沖地震の被害状況及び対応について、2007/7/31
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g70802a04j.pdf
東京電力、平成19年度新潟県中越沖地震を踏まえた自衛消防体制の強化ならびに迅速かつ厳格な事故報告体制の構築に係る改善計画、2007/7/26
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g70827b16j.pdf
経産省原子力安全・保安院、新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所への影響に関する国際原子力機関(IAEA)のフォローアップ調査団報告書の公表について、2007/3/4
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2008/siryo12/siryo1.pdf
文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課防災環境対策室、新潟県中越沖地震に係る対応について、2008/3/21
http://www.anzenkakuho.mext.go.jp/news/siryou/bousai07/20080324_01b.pdf
毎日新聞、2007/7/20
資源エネルギー庁、エネルギー白書(2008)、2008/5/28
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2008/index.htm
日本都市計画学会地震災害復興調査活動指針(案)作成分科会、新潟県中越沖地震調査報告、2007/8/8
http://www.soc.nii.ac.jp/cpij/com/21cv/disa/report070808.pdf
総務省消防庁、消防白書平成19年度版、http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h19/h19/html/j1911100.html
日本経済新聞夕刊、2009/3/5
死者数 11
負傷者数 1987
物的被害 全壊1,057棟、半壊1,772棟、一部損壊20,341棟、
被害金額 原発停止に伴う直接の影響3,200億円
社会への影響 原発の地震に対する安全性への関心が高まる
マルチメディアファイル 図2.刈羽原子力発電所を西方から見る
図3.3号機変圧器付近の火災
図4.変圧器と建物を結ぶダクト部分
図5.刈羽原発各号機の概要
図6.各号機の最大加速度観測値
図7.3号機タービン建屋の観測値と設計値
図8.一次エネルギー国内供給の推移
図9.発電電力量の構成(2005年度)
備考 事例ID:CZ0200804
分野 その他
データ作成者 張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)