失敗事例

事例名称 パロマ湯沸器事故
代表図
事例発生日付 2005年11月27日
事例発生地 東京都港区
事例発生場所 アパート内の部屋
事例概要 パロマ工業製瞬間湯沸器で一酸化炭素中毒による死亡事故が発生した。安全装置を構成するコントロールボックスにはんだ割れが相次いだ為、不正改造し、安全装置が働かなかったことが原因と推定される。メーカーの事故への対応方法のまずさが大きく報道された。
事象 アパートでパロマ工業製半密閉式ガス瞬間湯沸器を使った大学生が、一酸化炭素中毒で死亡、兄が重傷となる事故が発生した。すでに発生していた同様事故に対するメーカーの対応が大幅に遅れていた。
経過 2005年11月27日、東京都港区のアパートで、パロマ工業製瞬間湯沸器を使った大学生(当時18歳)が一酸化炭素中毒で死亡、兄(当時27歳)が重症となった。
2006年2月、1996年3月に同じ東京都港区で発生死亡事故に関して、死亡原因(心不全)に納得できない遺族が、警察に再捜査を要望した。
同年3月~6月、警視庁捜査一課が再捜査を実施し、死亡原因が一酸化炭素中毒で、再現実験の結果、パロマ工業製瞬間湯沸器の不具合による疑いが判明。
7月11日、捜査結果が警視庁より、監督官庁である経済産業省(以後「経産省」)に報告。
7月14日、経産省が、パロマ工業製瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故について報道発表(事故件数17件・死亡者15人)。同日、パロマの小林社長が記者会見。一連の事故原因は、器具の延命等を目的に安全装置を解除したサービス業者による不正改造で、製品には全く問題ないという認識との発言。謝罪表明はなかった。
7月18日、パロマが再び記者会見。経産省の調査とは別に、11件の事故が判明し、事故件数28件・死亡者21人に。さらに事故原因の一部が安全装置の劣化であることや、1992年当時社長だった小林会長へ一連の事故報告がなされていたことを明らかにした。ここで始めて謝罪表明した。
7月31日、会長と社長は経産省に調査報告書を提出。この日の記者会見でも、事故の原因は製品の欠陥ではない。不正改造を指導、容認した事実はなく、関与した社員もいないと主張。
8月7日、7月31日に提した調査報告書が経産省より内容が不十分として、再度報告を求められる。結果、一連の事故対策が不十分だったと反省している、と見解を修正。
原因 半密閉式瞬間湯沸器(図2)とは、燃焼用の空気を屋内からとり、燃焼排ガスを排気筒で屋外に排出するガス湯沸器であるが、排気ファンが停止した場合に燃焼機へのガスの供給を自動的に遮断する安全装置の不正改造が設置後になされたことから、不完全燃焼に至り、一酸化炭素中毒事故となった。安全装置を構成するコントロールボックスにはんだ割れが相次いだ為、不正改造したものと推定される。
対処 7月14日、経産省は、パロマ工業株式会社に対して、対象7機種の点検と必要な改修を行うことを指示。
7月15日、経産省大臣から、消費者の安全確保優先、徹底的な原因究明、ガス関係の事故に対する情報収集・分析および再発防止の迅速かつ的確な対応、製品安全全般に係る総点検の実施などの指示が出された。
8月23日、7機種について18211件の点検の結果、231件(1%以上)の不正改造を確認。
8月28日、経産省は消費生活製品安全法に基づき、パロマの問題機種の回収命令を発動。
対策 1.事故リスク情報の適切な処理
・製品に係る事故リスク情報への対応および的確な分析体制の確立
・経産省内の検討・フォローアップ体制の整備
・警察、消防等との連携体制の確立
・事故リスク情報の国民への提供(ホームページで公表など)
・経産省における事故原因分析および対応に係る組織体制の強化
2.製品事故の未然防止策
・ガス消費機器の安全確保のための制度改正(安全な使用のための周知、メーカーからの事故報告の義務化、安全装置のフェイル・セーフ設計の義務づけ、安全装置が不正改造されない構造の技術基準の義務づけ、不正な安全装置の改造を防止するための工事業者に対する監督強化など)
・製品安全全般の安全確保対策(使用実態の変化を踏まえた技術基準の見直し、製品安全政策全般に関する課題についての検討など)
知識化 1.安全装置は容易に外されてしまう。しかも不正改造を当該業者が行ったとしたら、一般の使用者は疑うすべもない。メーカーの安易な対応が大勢の命を奪ってしまう。
2.不具合が続くと、安易な対応に走ってしまう。その結果、重大な事故を起す。特に、発売間もない製品には注意が必要である。
3.経営トップのワンマン体制は、不具合への対応が遅れる要因となることがある。
背景 パロマ工業は株式の過半数を創業家である小林一族が保有する典型的な非上場・同族経営企業である。今回の事故への対応で、このタイプにありがちなコーポレートガバナンス(企業統治)の問題が浮き彫りとなった。
後日談 2007年12月11日、東京地検はパロマ工業株式会社の前社長(事故当時社長)と元品質管理部長(事故当時品質管理部長)を不正改造による死亡事故続発を知りながら、しかも系列の修理会社の修理記録を保管、不正改造の恐れのある製品の場所の特定が可能であったにもかかわらず、点検・改修や注意喚起などの危険回避の措置を取らなかったとして在宅起訴に踏み切った。
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、運営の硬直化、ワンマン経営、価値観不良、安全意識不良、無知、知識不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、誤判断、狭い視野、計画・設計、計画不良、製作、ハード製作、使用、運転・使用、誤対応行為、連絡不備、安全装置解除、誤対応行為、自己保身、不良行為、倫理道徳違反、不良現象、化学現象、COガス発生、身体的被害、死亡、組織の損失、経済的損失、組織の損失、社会的損失
情報源 日本経済新聞、2007-12-12
ニュースレリース、パロマ工業(株)製瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故の再発防止について、経済産業省、2006-07-14、http://www.meti.go.jp/press/20060714008/press-release.pdf
http://www.meti.go.jp/press/20060828004/press-release.pdf
死者数 21
負傷者数 19
マルチメディアファイル 図2.半密閉式瞬間湯沸器
備考 事例ID:CZ0200705
分野 その他
データ作成者 張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)