失敗事例

事例名称 外国人(不法就労者)が建設工事現場で転倒した枠組足場の下敷きになり死亡した。
代表図
事例発生日付 2003年03月02日
事例発生地 神奈川県川崎市
事例発生場所 川崎市内の建設現場
事例概要 この事故は、川崎市内の建設工事現場において、外部枠組足場解体作業中、地上に仮置きした枠組足場が転倒し、材料整理をしていた作業員(外国人不法就労者)が、付近に積んであった布板との間に頭部を挟まれ死亡した事故であるが、当事例においては、仮置きした枠組足場が転倒したことを失敗事例として取扱うのではなく、被災者が不法滞在(不法就労)の外国人労働者であったことに着目し分析することとした。
事象 ・事故発生後、警察官の検証により、被災者は、日本人を偽装した外国人であることが判明した。
・被災者は、観光ビザで入国し、滞在許可期間を超えて就労していることも判明した。(滞在許可期間3週間、来日後経過期間6ヶ月)
・事故発生後に、被災者が外国人であることが判明したが、相当期間(2ヶ月程度)仕事と生活を共にしていて、周囲の者が、気が付かなかった事は不自然である。
経過 ・被災者は、A社を訪れ日本人名を名乗り、就労を希望した。
・A社は、雇い入れ面談の際、言葉使いに多少に訛りがあると思ったが、外国人という認識を持つことは無く採用した。
・被災者は、A社の宿舎に寄宿して就労することとなった。
・事故は、被災者が就職後2ヶ月程度の期間に発生した。
・災害補償については、労働基準監督署の見解は労働者として労災保険を適用することとした。
・被災者の身元確認は、在日関係団体の協力を得て行った。
・遺体(遺骨)の本国移送は、在日領事館において手続をとった。
・遺体(遺骨)の引渡し、事故及び補償の説明は、A社が渡韓して行った。
原因 ・事故の発生原因は、解体した枠組足場をクレーンにて吊り下ろし、地上に仮置きした際、旋回したクレーンのワイヤーが枠組足場に引っかかり転倒したことである。
・しかし、足場解体作業主任者が、被災者に対し、当該箇所は危険だから、他所へ移動するように指示したにもかかわらず、被災者は言語を十分に理解できない為、そのまま移動をしていなかったことは人的・管理的要因である。
・更には、日本における就労資格を有しない労働者を雇用した事業者のミス(失敗)は、安全管理の根幹を欠いた問題である。
対策 ・事業者は、労働者の採用に当たっては、短期間雇用労働者といえども、少なくとも国民健康保険証等の書類で身元を確認する必要がある。
・外国人が就労を希望してきた場合は、必ずパスポートと入国査証を確認し、日本における就労資格の有無を確認する必要がある。
知識化 ・日本人を偽装して就労を希望する外国人は、簡単な日本人名を名乗り、挨拶言葉程度を話すことが出来るが、安全ミーテング等で伝達した事項等は理解していない。
・建設技能工としての経験と体力を有しているとしても、情報伝達を理解できない外国人(不法就労)労働者は、極めて危険な(安全度が低い)要因である。
背景 ・日本における高収入、高賃金を目的とした外国人の不法入国、不法滞在、不法就労は後を絶たない現象である。
・建設現場は、不法就労を企てる外国人にとって、比較的就労し易い職場である。
・不法入国、不法滞在をする外国人の犯罪は社会問題ともなっている。
後日談 ・被災者に対して、労災保険の適用は認められるものの、申請手続に必要な証票(除籍謄本、住民票、印鑑証明、葬儀執行証明書等)が、外国の制度としてそれらの証票があるとは限らない。事業者側は、被災者に代わって補償申請手続をすることになるが、その煩雑な事情を知らなければならない。
・事業者側は、それらの証票を全て翻訳して提出しなければならない。
・被災者の家族関係者との(国際間の)連絡は容易ではない。
・被災者の家族関係者に事故の説明と補償関係について理解(示談等)を得ることも容易ではない。
・遺族代表者は本人確認を求められる為、来日しなければならない。
・国際間の橋渡しをする在日関係団体の協力が不可欠であるが、そうした機関が身近にあるとは限らない。
よもやま話 ・被災者は、本国で事業に失敗し、借財を残して来日したものであるが、補償金によってそれらを全て弁済し、更に家族に多額の遺産を残すこととなった。
データベース登録の
動機
・国際間の健全な友好関係を築くため。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、誤認知、錯誤・見誤り、無知、知識不足、過去情報不足、不良行為、規則違反、法規違反、誤対応行為、自己保身、看過、身体的被害、死亡、事故死
情報源 自己体験
死者数 1
負傷者数 0
物的被害 軽微
被害金額 未測定
全経済損失 未測定
社会への影響 メディアの報道は無かった。
分野 建設
データ作成者 野中 格 (社団法人 日本土木工業協会)