失敗事例

事例名称 吊りワイヤーを介した水平力により門構が転倒
代表図
事例発生日付 1987年11月
事例概要 PC(プレストレストコンクリート)上部工工事において、PC桁を門型の桁吊り装置(門構)で吊り上げ、据付け位置まで横移動中、桁吊りチェーンを介して門構に水平力が作用し、門構の控索ワイヤーの固定アンカーが引き込まれ、門構が転倒し、PC桁が落下した。幸いにも本事故による被災者は出なかった。
事象 昭和62年11月、PC上部工工事において、桁吊り装置(門構)が転倒し、長さ40m、重さ100tのPC桁が橋下の道路上に落下したが、幸いにも本事故による被災者は出なかった。
経過 ・本橋は左右の橋脚、橋台の角度が違う撥形橋梁であった。(P1斜角95°12′、A2斜角84°47′)
・橋梁中心位置に架設桁(エレクションガーダー)を据付け、撥形状の外側のPC桁を架設桁上に引き出しを行った。
・門型の桁吊り装置(門構)でPC桁を吊り上げ、据付け位置に向かってP1側で約60cm、A2側で約1m横移動した時、桁吊りチェーンを介して門構に水平力が作用し、門構の控索ワイヤーの固定アンカー(コンクリートブロック:重量5.5t)が引き込まれ、門構が転倒した。
・PC桁は橋下の道路上に落下したが、幸いに被災者は発生しなかった。
原因 ・桁吊り装置(門構)に直接水平力が作用する架設工法を採用した。                                                        桁配置が撥形形状のため、架設桁上のPC桁を吊上げた時の吊上げ支間と、吊上げた桁を所定の位置に据付けるために横行した時の支間は変化し、その変化の分が門構の控索アンカーに水平力として作用した。
・社内施工検討会では架設方法の良否の判断をせずに、現場担当者の経験技術に期待し、適切な変更指示をしなかった。
・撥角度が小さかったため、計画水平力への対応で十分であると判断した。
・控索アンカーのコンクリートブロックの位置を変更したため、安全率(滑動に対して1.5以上)を満足していなかった。
・水平力に衝撃による割増し(25%)を考慮していたが、これ以上の衝撃(縦振れ、横振れ)が作用した。
・組織体制と作業分担の確認が不徹底であった。
対処 ・落下したPC桁を直ちに解体・撤去した。                                
・再架設作業手順書の作成・見直しを行った。
・架設作業指揮者、作業員の組織体制と役割を明確にするとともに、工事担当者の責任分担を周知徹底した。                                            
・再製作したPC桁の架設方法について、社内施工検討会で最も安全な2組桁架設工法による横取り架設を検討したが、架設桁の調達が難しかったので、当初計画通り1組桁架設工法にせざるを得なかった。                                       
・控索アンカーの引張力に所定の安全率(吊り荷重による水平力に対しては2倍)を考慮し、更に架設桁上で吊り装置に最大水平力が作用する状態で(縦移動用重量台車とPC桁下面に僅かの隙間をとる)試験吊りを行って安全を確認した。
対策 ・門構控索ワイヤーにクレーン等安全規則およびクレーン構造規格で許容される水平力以外の荷重が作用しない架設工法を採用する。 1.(架設桁架設+移動式クレーン) 架設桁上にPC桁を引出し、両側に据付けた移動式クレーンで相吊り架設する。この工法は架設地点に移動式クレーンが自由に進入できる場合に可能となる。                                              
2.(架設桁架設+補助桁) 吊上げ、横行時に支間が変化しないようにPC桁の両側に吊上げ荷重に耐えられる鋼製の補助桁(ノーズ式持具)を取り付ける。この時、門構は橋梁形状に関係なく平行に据付けるので水平力は作用しない。                       
3.(2組架設桁架設+横行架台設備) 2組の架設桁を架設径間に設置された鋼製架台上の横取り装置に据付ける。その2組の架設桁上に自走する桁吊り装置設備(2連式)を組み立てる。引出し設備により軌道上を引き出されたPC桁を2組の架設桁に抱き込み、所定の位置まで運搬する。PC桁は、架設桁に抱き込んだ状態で両側の鋼製架台上を横取り、所定の位置に据付ける。                                         
・社内施工検討会で徹底的な討議がなされなかった。また、特殊架設であるという認識が欠けていたことから、社内施工検討会の在り方、組織、役割を明確にする必要がある。           ・施工時に控索アンカーの位置を変更したことは、控索の角度変化により作用水平力も増加することであり、施工経験からの安易な変更は絶対に行わない。
知識化 ・道路、鉄道、河川等の交差部は橋台、橋脚配置条件から撥形橋梁に計画されるケースが多く、架設作業が制約され、架橋地点に自走式クレーンの進入が制限される場合が多いので、架設箇所の環境条件を調査して架設計画を作成する。                 
・撥形橋梁を架設桁架設工法で施工する場合、桁吊り装置控索アンカーにはクレーン安全規則およびクレーン構造規格で許容される水平力以外の荷重が作用しないことが原則であり、施工方法で吊荷重による水平力が発生することは避けなければならない。
・作業中の計画変更は行わない。やむを得ず変更する場合は施工検討会を実施し、安全である事を確認する。                                           
・架設経験技術だけでは作業の安全は保障されない。
背景 ・PC桁の架設桁架設は一般的な架設工法として多くの実績がある。また撥形橋梁の架設桁架設も(架設桁架設+補助桁)工法もしくは(2組架設桁架設+横行架台設備)工法等により安全に架設されている。本橋の場合、撥角度が小さかったため架設計画の段階で水平力が作用することを認識していたにも関わらず安易に作業を行ったこと、また現場での計画変更等、経験技術に頼った結果が事故に繋がったと思われる。
データベース登録の
動機
・同じ間違いを繰り返さないために。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、状況に対する誤判断、環境条件に合わない工法、調査・検討の不足、事前検討不足、作業検討不足、審査・見直し不足、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、定常操作、誤操作、水平力作用を認識しながらも安易に作業、定常操作、誤操作、控索アンカーの位置変更、破損、大規模破損、倒壊
死者数 0
負傷者数 0
分野 建設
データ作成者 田中 巳代 (社団法人 プレストレスト・コンクリート協会)