失敗事例

事例名称 緊張作業中定着部背面が破壊される
代表図
事例発生日付 1994年11月07日
事例発生地 京都府向日市
事例発生場所 高速道路拡幅工事PC桁
事例概要 プレキャストPC(プレストレストコンクリート)桁の緊張作業中に主方向PC鋼材定着部背面がずれ、せん断破壊を起こして定着具が主桁にめり込んだ。
事象 構造形式は、ポストテンション方式プレキャスト桁橋の耳桁(最外側に配置する桁)であり、平面的に斜角70°である。主桁断面はほぼ矩形に近い形状である。桁長37.0mに対して桁高を1.15mと標準桁高より低く制限した(桁高スパン比h/L=1.150/37.0m=1/32.2)。緊張作業中に主方向PC鋼材定着部背面が破壊を起こして定着具が主桁にめり込んだ。
経過 この事象の発生から処置までの経過は以下の通りである。
1.1径間5本主桁のうち、破損した桁以外の4本は主方向緊張完了して架設までの仮置き状態であった。特に異状はなかった。
2.破壊した桁は、端部定着される主方向PC鋼材(12S12.7-ストランド)4本のうち、C1、C2の2本は緊張完了していた。
3.桁外側のPC鋼材C3の緊張作業中に定着部背面のコンクリートがずれ、せん断破壊を起こして定着具がめり込んだ。
4.主桁端部(PC鋼材定着部)が破壊したため、緊張作業を中止した。
5.緊張作業員は桁側面の安全な位置に居たため、人身事故はなかった。桁製品のみの損傷事故であった。
原因 この事象の発生原因は以下の通りである。
1.主方向PC鋼材(12S12.7)定着具の背面に横締め定着具用の箱抜きが近接していた。       
2.主桁が斜角70°を有しているため、横締め定着具用の箱抜き形状寸法が大きく深かった。
3.定着具配置間隔、縁端距離はPC工法基準の規定を満足しているが、主桁製作時の箱抜き型枠を一体型としたため、背面に大きな断面欠損部を作ってしまった。
4.設計段階および主桁製作時の図面照査において、定着部背面の構造が十分に認識されていなかった。
対処 1.破壊した主桁の処置(修復再利用か廃棄再製作)を決めるため、発注者と協議検討した。
2.処置方法としては、破損部をきれいに取り壊して部分的に打ち継ぎ、定着具およびPC鋼材を取り替える処理をする。載荷試験等で主桁の強度、耐荷力を確認した上で使用する。(手直し利用案)と破損した桁は、完全に破棄処分とする。一部構造を改善して新たに桁製作をする。(破棄処分・再製作の案)を検討したが、この事例では、架設時期の変更が不可能であること。載荷試験のみでは、手直しした主桁の耐荷力、耐久性の確認が不明確であること等の理由により破棄処分、主桁再製作の方法を採った。
対策 本事例の再発防止対策として以下に記述する。                                                         1.プレストレストコンクリート部材のPC鋼材定着部近傍は、プレストレス力の局部集中の影響が受ける個所であるため、コンクリートの所定の圧縮強度を必要とし、充実した断面であること。スターラップ、格子状の鉄筋、らせん鉄筋などの補強鉄筋を配置する対処が設計段階で必要である。
同様にPC鋼材定着具付近のコンクリートは、PC鋼材と直角な方向に生じる引張応力に対して、補強鉄筋を配置して補強しなければならない。
2.数多くの定着具を同一面内に配置する場合、定着具の数、引張力の大きさ、各定着具の必要最小間隔などを考慮して、コンクリートの部材断面寸法が決められている。                                                                              
以上のように、プレストレストコンクリート部材の定着部は重要な部分であり、プレストレス導入時に事例のような不具合、事故が生じると部材としての要求性能を満足しない。それだけでなく、緊張作業時の重大な事故に発展しかねない。したがって、設計段階および施工時の図面照査において、定着部の構造細目(主方向PC鋼材定着部と横方向定着部の交錯状況、補強筋の適切な配置、部分的な断面欠損の有無、グラウトホースの集中配置の状態等)を十分に事前検討し、問題があれば改善しなければならない。
 ポストテンション緊張作業中に発生しうる同様な事故例として、グラウトホースを定着部背面に集中して配置し、コンクリートを打込み、結果的に定着部背面が空隙、断面欠損となり、緊張作業時に定着具が部材コンクリートにめり込む可能性がある。このPC鋼材は緊張不可能となり、プレストコンクリート部材として重要な部分を取り壊し、補強して再度製作せざるを得なくなる。
知識化 1.照査項目化(チェックシート等)
2.関係者への情報の伝達等
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、作業・工程検討不足、審査・見直し不足、不注意、理解不足、リスク認識不足、定着部構造設計不良、計画・設計、計画不良、設計不良、不適切な箱抜き、破損、破壊・損傷、座屈
分野 建設
データ作成者 田中 巳代 (社団法人 プレストレスト・コンクリート協会)