失敗事例

事例名称 油槽所におけるガソリンタンクを2基平行して改造工事中、ガソリン蒸気の火災
代表図
事例発生日付 2003年08月29日
事例発生地 愛知県 名古屋市
事例発生場所 油槽所
事例概要 隣接した2基のタンクで工事を行っていた。1基は火気使用工事であり、他の1基ではタンク側面のマンホールを開放し、ガソリンの抜き取りを行っていた。この時に火災が発生し、両方のタンクの作業者6人が死亡し、1人が負傷した。ガソリンの抜き取り作業中に発生した蒸気が、火気使用に伴う着火源で引火したと考えられる。ガス検知器1基が設けられ、それが吹鳴したが間に合わなかった。工事管理ミスが引き起こした事故であろう。
事象 油槽所のガソリンタンク2基をコーンルーフ型から内部に浮き屋根を設けて2重屋根構造のインナーフロート型タンクへ改造する工事を行っていた。2基の工事の進行状況は異なっており、先行する24号タンクは既に内液の抜き出し、パージを終わり火気使用工事に入っていた。一方の2号タンクはポンプによる液の抜き出しを終わり、マンホールを開けて、ホースを差し込みタンクローリーに移す作業を行っていた。その時に火災が起こった。なお、2号タンクと24号タンクの間に置かれていたガス検知器が鳴ったため、24号タンクで作業していた作業員は待避したが、3人が火災に巻き込まれて亡くなった。さらに、2号タンクで酸素マスクを付けてタンク内作業をしていた3名の作業員が、火災発生後タンク内に取り残され死亡した。
プロセス 貯蔵(液体)
物質 ガソリン(gasoline)
事故の種類 火災
経過 24号タンクは約1ケ月前にガソリンが抜かれ、内部に気化ガスはなく、安全とされた。
2号タンクは2003年8月25日から30日までの日程で、タンク内のガソリンを移送していた。
8月29日10:00 2号タンクのマンホールを開放し、ホースを差し込み、空気式ポンプによる抜き出しを開始した。
14:30 2号タンクがほぼ空になったので、内部を水洗浄した廃油をバキュームカーで抜き出す作業を開始した。
15:40頃 2号タンク付近から出火した。
19:20 鎮火した。
原因 2号タンクで発生したガソリン蒸気が、タンク外周をまわり、24号タンクでの工事の何らかの火源で引火した。
対処 自衛消防組織の活動については資料に記載がない。公設消防が出動し消火した。
対策 基本的には、日々の工事内容を把握し、その内容に適した工事方法や工程を考える必要がある。この事故の場合、隣接するタンクでガソリンが開放状態になるのであるから、周囲は火気使用工事をやめることが必要であった。少なくとも、ガス検知器1台の設置で火気使用工事をするのではなく、立合者が危険なタンクの状況を把握し、そのの指示で、火気工事の中止をさせるなどが最低限必要であったであろう。
知識化 1.当然のことであるが、ガソリン等の低沸点液体を大気に開放したら、可燃性蒸気を発生する。発生した可燃性蒸気は拡がって行く。タンクのマンホールの反対側においても当然発生した可燃性蒸気が拡がる範囲にある。これはガソリン等の低引火点液体を取り扱う上での基本である。
2.危険物施設工事の安全対策は先ず発注者にある。元請けがいくら優秀でも、危険物についての知識や施設の状況が把握できるのは発注者しかいない。
背景 明らかに管理体制のミスであろう。隣接したタンクを開放して、引火点の低い液体の抜き出し工事を行っているにも拘わらず、ガス検知器を置いただけで火気使用工事を行っている。抜き出し作業中のタンク周辺でのガソリン蒸気の発生や他タンクからのベントガスやドレン切り作業などによる可燃性ガスの発生を予測しての危機管理がないように見える。危険予知の欠如、工事内容の把握の不足と言えるのではないだろうか。
後日談 事故後、厚生労働省労働基準局長名の通達が出ている。(基発第0911006号、0911007号)内容は省略するが、なぜ、この程度の内容の通達を今頃出さざるを得ないのかと思う。
よもやま話 ☆ 石油業界では合理化のため油槽所の統廃合を進めている様だが、合理化を進めて行くなかで安全の維持がおろそかになっていなければ、いいのだが。
データベース登録の
動機
タンクヤード工事の安全対策の一例
シナリオ
主シナリオ 企画不良、戦略・企画不良、作業内容・工程・環境不良、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、誤判断、状況に対する誤判断、危険範囲と対策不十分、計画・設計、計画不良、工事計画不良、非定常行為、無為、安全対策不備、二次災害、損壊、火災、身体的被害、死亡、6名死亡、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失、組織の損失、社会的損失、信用失墜
情報源 危険物等事故防止技術センター、Safety & Tomorrow、No.92(2003)、p.17-27
火災、No.266(2003)、p.5-7
死者数 6
負傷者数 1
物的被害 屋外タンク貯蔵所2基焼損
マルチメディアファイル 図2.現場図(中日新聞)
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)