失敗事例

事例名称 倉庫に保管中の発泡性ポリスチレンビーズより放出された可燃性ガスの爆発と倉庫火災
代表図
事例発生日付 1982年08月23日
事例発生地 三重県 四日市市
事例発生場所 倉庫
事例概要 発泡性ポリスチレンビーズを倉庫で保管中にビーズから放散されたブタン、ペンタンの蒸気が爆発し、倉庫が炎上した。発泡性ポリスチレンビーズの製造業者からは温度上昇によるガス発生が製品の性能を劣化させるので,低温で保持するように指示があったようであるが,発生するガスの危険性について十分知らされていたかどうか疑問である。また,食品用の倉庫から化学薬品を保管する倉庫に転用したが、倉庫内に非防爆のスイッチがあるなど問題があった。
この特定の倉庫の問題ではないが、フレキシブルコンテナの導入時に可燃性ガスの発生について調査され,5℃の低温貯蔵ではガスの放散が抑制されて問題なしとされた。しかし、発泡性ポリスチレンビーズがより高温で入庫される状況下で、そのものの温度が期待された低温の貯蔵温度となり,可燃性ガスの発生が抑制されるまでの時間についての配慮が足りなかった。
事象 発泡性ポリスチレンビーズなどを保管する倉庫で発泡性ポリスチレンビーズから放出されたブタンやペンタンなどの可燃性ガスが爆発炎上した。倉庫は一般倉庫から化学品の低温倉庫へと転用されたもので、電気設備は非防爆であった。
発泡性ポリスチレンビーズ;発泡ポリスチレンの原料で、発泡剤としてブタンやペンタンを数%含浸させているポリスチレン、製造後徐々にガスを放散する。
プロセス 貯蔵(固体)
物質 ブタン(butane)、図2
ペンタン(pentane)、図3
ポリスチレン(polystyrene)、図4
事故の種類 爆発・火災
経過 1982年8月19日,20日に発泡性ポリスチレンビーズが搬入され,当該倉庫に120トン(500kgフレキシブルコンテナ240個)が入庫した。同倉庫にはこれ以前より発泡性ポリスチレンビーズ30トン(100kgドラム缶309本)が保管されていた。
8月21日17:00 倉庫は一時開放されたが,それ以後は無人となった。
8月23日03:12頃 当該倉庫で爆発が起き,火災が発生した。
13:54 鎮火した。倉庫3棟が全壊,1棟が半壊,最大約955mの範囲で周囲の建物347棟に被害が及んだ。
原因 発泡性ポリスチレンビーズから徐々にブタンガスおよびペンタンの蒸気が放出され,さらにフレキシブルコンテナから外部に放出され,倉庫内に蓄積したと考えられる。着火源については明らかになっていないが,倉庫の冷凍機の配電盤が建家内にあり,防爆仕様になっていなかったことがわかっている。
対処 公設消防隊による消火活動
知識化 物質の危険性情報の伝達は重要である。
背景 発泡性ポリスチレンビーズからの可燃性ガスの放出についての知識がなかった。一般的にも特性は知られていないが、製造者側では、製造後暫くは自社保管をして放散ガスが少なくなってから出荷していたようだ。製造者から倉庫業者への危険情報の伝達、保管方法の指示がなかったものと思われる。
後日談 約4ヶ月後に出された「発泡性ポリスチレンビーズ等にかかる防火安全対策について(消防庁通知)」により発泡性ポリスチレンビーズなどの貯蔵庫へのガス検知設備,換気設備の設置,電気設備の倉庫外設置あるいは防爆電気設備の使用などが義務づけられた。
データベース登録の
動機
危険性について比較的知られていない物質を貯蔵業者などが扱う場合の危険性について考えさせられる例
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、勉学不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、電気品転用計画、使用、輸送・貯蔵、保管、不良現象、化学現象、可燃性ガスの放出、二次災害、損壊、爆発・火災、組織の損失、経済的損失、損害額13億円、社会の被害、社会機能不全
情報源 四日市市消防本部、近代消防、No.242、p.55-59(1982)
全国危険物安全協会連合会、危険物施設の事故事例集1(1983)、p.8-10
消防科学総合センター、地域防災データ総覧(1986)、p.88
死者数 0
負傷者数 24
物的被害 小古曽倉庫関係で、鉄骨2階建て倉庫1棟全焼、鉄骨平屋建て倉庫1棟全焼、プレハブ事務所1棟全壊、鉄骨平屋建危険物倉庫1棟半壊、その他付属建物(車両含む)全半壊.
現場付近(東方850m、南方750m、西方700m、北方1000mの範囲)で、現住建造物等242棟全半壊、非現住建造物等99棟全半壊、車両3台全半壊(三重県警察本部による).
付近建物318棟被害(化学火災委員会資料による).
工場34棟、店舗9棟、住宅193棟、事務所など82棟被害(地域防災データ総覧による).
被害金額 13億2,905万9,177円(三重県警察本部による)
社会への影響 四日市市小古巣地区の電話170回線が焼けただれ不通.
マルチメディアファイル 図2.化学式
図3.化学式
図4.化学式
備考 大量(>1000トン)のスチレン系樹脂・合成ゴム類が類焼したために、スチレン類が大量に発生した可能性あり。スチレンモノマーは厚生労働省によって室内環境指針値が定まっている(指針値:220ug/m3)。人体影響は鼻・眼の刺激、神経毒性。発がん性はないとされている。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 和田 有司 (独立行政法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 開発安全工学研究グループ)
吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)