失敗事例

事例名称 重油直接脱硫装置の蒸留部において振動に起因した重油漏洩による火災
代表図
事例発生日付 1996年02月18日
事例発生地 岡山県 倉敷市
事例発生場所 製油所
事例概要 重油直接脱硫装置の蒸留塔塔底ポンプのミニマムフローラインでドレンバルブがいつの間にか開になりキャップも外れて、塔底油が漏洩して火災が発生した。それまで、長時間使用したことのないミニマムフローラインの設計に振動対策上の問題があった。それが反応系の点検時に、初めて長期使用し顕在化して火災事故となった。
事象 重油直接脱硫装置の定常運転中、減圧蒸留塔の塔底油抜き出しポンプ下流側のミニマムフローラインに設置されている流量調節バルブ付近のドレンバルブ(3/4B)から塔底油が漏洩、飛散した。付近の配管、ポンプケーシング等の高温部に接触発火し、延焼拡大した。
 ミニマムフローライン: ポンプ吐出などから主配管とは別に設ける循環配管。目的は種種あるが、ポンプ保護のためが一般的である。この例では温度調節用とある。
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸発
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 重油(fuel oil)
事故の種類 漏洩、火災
経過 2週間前に5日間かけて反応系の点検を行い、その間蒸留系は循環運転を行っていた。循環運転の間、各塔・槽の液位レベルを確保するため、制限オリフィスが設けられているミニマムフロー配管を使用した。このミニマムフローラインは従来ポンプの起動時などの短期間の使用であったが、今回は5日間連続して使用した。この部分から塔底油が漏えい、飛散し、付近の配管、ポンプケーシング等の高温部に接触発火し、延焼拡大した。
 制限オリフィス: Restriction orificeの訳。流量が一定になるように配管に挿入するオリフィスのこと。ポンプ負荷が過大にならないように循環配管などに設置することが多い。
原因 1.漏洩の原因
循環運転時に使用したミニマムフローラインの配管系は、ごく短期の運転しか想定されていなかった。そのため、絶対必要な熱膨張対策を優先し、配管を固定するサポートが少なく、振動に対する配慮はなされてなかった。そのため、かなり大きな振動が発生した。5日間の運転中にドレンバルブ及びキャップが振動により次第にゆるみ、ドレンバルブが開放し、キャップも脱落したものと推定される。振動の原因は、ミニマムフローラインに設置された制限オリフィスによる下流でのキャビテーションと調整弁の絞りである。
2.着火原因
付近の配管、ポンプケーシング等の高温表面に漏洩油が接触し着火した。
対処 事故直後、装置の緊急停止を実施し、減圧蒸留塔内には消火用窒素を封入した。
対策 1.振動発生を対策した配管設計
2.設計審査体制の見直し
3.類似箇所のチェック
知識化 配管の振動対策の設計上の不備が、通常使用しない配管であったため顕在化しなかった。設計審査のあり方に問題があった可能性がある。また、通常使用しない配管の初めての長時間使用に当たって、チェック体制を取っておけば事故の未然防止が可能であったと考えられる。
背景 バルブが解放するほどの振動が発生するミニマムフローラインの設計不良が、基本的事故要因であろう。設計の意図を運転側が十分に理解しない連絡の悪さ、あるいは歴史の無視が、それに加わったと推定される。
よもやま話 ☆ 差圧の大きい、あるいは出入り口の圧力比の大きい流路の絞り(調整弁や制限オリフィスなど)では、流れの下流で渦や気泡が起こるため振動や大きな異音が起こることがある。2004年の敦賀原発の二次冷却水配管減肉と同じ現象が起こっていた。
データベース登録の
動機
流路に絞りを入れたために発生した振動と配管固定とがマッチングしなかったために漏洩した例。
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、管理の緩み、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、無知、知識不足、経験不足、計画・設計、計画不良、設計不良、非定常行為、無為、異常振動に無策、不良現象、機械現象、振動、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、直接損害額700万円
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例‐平成8年(1997)、p.106-107
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧‐平成9年版‐(1997)、p.198-199
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例‐Case 100‐(1999)、p.5
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 重油直接脱硫装置の減圧蒸留塔及び付近のポンプ、熱交換器塔の機器を焼損.
被害金額 658万円(消防庁による)
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)