失敗事例

事例名称 灯油相当留分のタンク屋根からのサンプリング作業中の爆発
代表図
事例発生日付 1981年12月16日
事例発生地 岡山県 水島市
事例発生場所 製油所
事例概要 可燃性混合気をタンクベーパー相に形成しない筈のPTタンクで、屋根よりサンプラーでサンプル採取を行った。蒸留塔の圧力制御用のシールガスの水素がPTに溶解し、それがタンクで放散され、爆発性混合気を形成していた。静電気対策の不備によりサンプラーに帯電した静電気が放電し、タンク内で爆発した。
事象 製油所のプロピレンテトラマー(PT)タンクの屋根上の検尺孔からサンプラーを降しサンプリング中、突然爆発した。PTの性状は灯油に近く、その引火点は63~64℃で、タンク温度はその温度よりはるかに低く、PTだけならタンク内の引火は考えにくい。
PT:プロピレンを重合させたオリゴマーのうち、4量体を主とした側鎖オレフィンで、かっては分岐型アルキルベンゼンやガソリン原料として使われた。
プロセス 貯蔵(液体)
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 プロピレンテトラマー(propylene_tetramer(1-dodecene))、図3
水素(hydrogen)、図4
事故の種類 爆発
経過 PTのタンクで、タンク上部の検尺孔からサンプラーを降しサンプルを採取した。上層部サンプルを採り、ついで中層部のサンプルを採りサンプラーを引き上げた。検尺孔近くまで引き上げた時タンク内で爆発し、2名負傷し、タンクが損傷した。
原因 二つの原因が指摘された。
1.静電気帯電し放電した。液中にサンプラーを移動させてサンプリングしているので、静電気は発生する。サンプラーの吊りロープが木綿製のため、タンク外に放電できなかった。このため、良導体のサンプラー表面に帯電した。
2.タンク気相部に水素の影響による可燃性混合気が作られた。PT装置の蒸留塔還流槽シールの水素ガスがPTに溶解し、PTタンクで放散されていた。
対処 公設消防出動待機、救急車1台、共同防災3点セット待機
対策 1.還流槽のシールガスを窒素に変更する
2.採取器によるサンプリング時は吊りロープに導電性の良いものを使い、帯電させない。
3.可能な限りタンク上部からのサンプリングを止め、循環線あるいはタンク中段からのサンプリングノズルを使う。
4.作業手順を明確にし、関係者に周知徹底する。
知識化 プロセスの還流槽等のシールガスが内部液に溶解し、それがタンクに留出した後で放散して爆発混合気を作ることがある。プロセスでのシールガスにも注意が必要であり、望ましくは不活性ガスを使うべきであろう。
背景 1.還流槽のシールガスがPTに溶解し、それがタンクで放散されて可燃性混合気を作るのを見落とした。還流槽の圧力が60KPaG、タンク圧がほぼ0KPaGであることから当然予見しなければならなかった。
2.静電気帯電予防対策が不足している。サンプラーの吊りロープが木綿製で静電気を除電できなかった。サンプラーの液中移動で発止する静電気の危険を見落とした。
よもやま話 ☆ プロセスでのシールはわずかでも加圧されている。常圧タンクではほとんど水柱0ミリメーターの圧である。この僅かの圧力差でも吸収ガスは放散される。
データベース登録の
動機
製造装置の還流槽のシールガスがタンクに溜まり可燃性混合気を作った例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、不良行為、規則違反、安全規則違反、計画・設計、計画不良、プロセス設計不良、不良現象、熱流体現象、静電気帯電、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、2名負傷、組織の損失、経済的損失、損害額4700万円
情報源 消防庁、危険物製造所等の事故事例集‐昭和56年(1982)、p.92-93
徳山消防、屋外タンク爆発事故概要(1982)
労働省安全衛生部安全課、新版 労働災害の事例と対策、中央労働災害防止協会(1984)、p.216-217
死者数 0
負傷者数 2
物的被害 1500kLタンク1基破損、内容物のプロピレンテトラマー焼損
被害金額 約4,700万円(消防庁による)
マルチメディアファイル 図3.化学式
図4.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)