失敗事例

事例名称 LPG工場におけるボンベ残液の室内放散による爆発とボンベの破裂による火災の拡大
代表図
事例発生日付 1988年08月19日
事例発生地 北海道 旭川市
事例発生場所 LPG充填所
事例概要 1988年8月19日、LPG充填工場で、ボンベの検査のため、ボンベに残ったLPGの液とガスの回収作業を行っていた。その作業が集中したことで、デッキや室内に放出していた。電気火花などで着火爆発した。充填所の他のボンベに誘爆し被害が拡大した。安全確保よりも作業効率を優先させたことが原因であろう。作業員の安全意識の向上が肝要である。
事象 LPGボンベ充填工場において、容器の再検査のためLPGボンベの残液と残ガスを回収中していた。その時、回収室に滞留したLPGが着火爆発して建屋が吹き飛んだ。さらに火災によりボンベが加熱されて破裂し、火災が拡大した。工場と施設や配送会社などが焼失した。図2、図3参照
プロセス 製造
単位工程 その他
物質 LPG(liquefied petroleum gas)
事故の種類 爆発・火災
経過 1988年8月19日17:30 通常どおりの充填作業と再検査作業を終了した。
18:20頃 再検査作業(ガス回収作業を含む)の残業を開始した。
20:14 回収室に滞留したLPGが着火し出火した。
20:15頃 最初の爆発音がした。
20:17 119番通報をした。
20:24頃 以降火災によりボンベ計162本が加熱されて次々に破裂し火災が拡大した。
20:34~42 ファイヤーボールが生成した。
23:30 火災を鎮圧した。
なお、消防活動により30、50トンタンクの誘爆は避けられた。
原因 1.原因: LPGを直接室内に放出して、燃焼範囲の可燃性混合気を形成したことにある。お盆休み明けで平常時よりも多くの容器が運び込まれ、残ガス量が僅かのボンベは、残ガス回収装置を使用せずにデッキや室内に放出していたとみられる。
多数の容器が換気口などを塞ぐ形になった。
2.着火源: 電気設備の火花あるいは摩擦・衝撃火花、静電気などと推定されているが特定されていない。
事務所内にガス漏れ警報機があり作動したと推定されるが19時30分以降は無人であった。
対処 1.緊急遮断弁を作動。
2.タンク元弁の閉止。
3.消防への通報。
4.燃えているボンベには放水せず。
5.延焼防止のためLPGタンクの散水装置の使用と放水による冷却。
対策 1.作業基準の遵守。
2.計画的な作業工程の管理。
3.保安教育の徹底と意識の高揚。
4.作業容器数の適正化。
5.ガス漏れ警報器の設置位置の見直し。
6.隣接作業室へのガスの流れ込みの防止。
知識化 1.作業量が過多の場合には、時間がかかる作業や手数のかかる作業が省略されやすい。したがって、作業の理由を十分に説明すると同時に管理・監督者が作業に同席するなどして、手抜きや省略をなくすことが重要になる。
2.ガスボンベの上部には溶栓が取り付けられており、加熱されると溶栓が溶けて内部のガスが逃げるようになっているはずであるが、急激に加熱されるとガスボンベの破裂を招き、被害が拡大することがある。
背景 安全教育の不備による。大きな事業所でもないので、作業実態を工場幹部は知っていたと推測する。たんなる安全教育の不備より、工場幹部の危険意識の欠如のため、安全より効率を重視する傾向があったのではないかと推測する。
よもやま話 ☆ 一般的に漏れた液体の1万倍の可燃性混合気が形成され、燃焼するとさらに6倍になる。このように自らの作業に密着した安全教育が大切である。
データベース登録の
動機
安全無視の作業による事故例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、無知、知識不足、LPGは危険の認識なし、不良行為、規則違反、安全規則違反、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、死亡、2名死亡、身体的被害、負傷、6名負傷、組織の損失、経済的損失、LPG充填所焼失他、社会の被害、社会機能不全、地域のインフラ
情報源 産業防災対策北海道本部推進委員会、LPガス製造事業所(容器検査所)事故調査分科会報告(1989)
旭川市消防本部、Hプロパン工場火災概況(1989)
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1989)、p.129、142-143
死者数 2
負傷者数 3
物的被害 LPG工場建屋(容器置場,充填室,塗装室等)全焼.隣接建物部分焼.LPG積載トラック,タンクローリー,乗用車焼損.容器飛散距離15~100m,プロパンボンベ破裂.
社会への影響 住民避難は検討されたが実施されず.(R08)付近の住宅停電,JR石北線不通,電話交信障害.
マルチメディアファイル 図2.容器飛散状況図
図3.屋内配置図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)