失敗事例

事例名称 界面活性剤製造装置の処理槽における空気の吸い込みによる変性エタノールの火災
代表図
事例発生日付 1998年03月24日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1998年3月24日 界面活性剤製造装置の処理槽で火災が起こった。処理槽のマンホールから、微粉体の吸着処理剤1袋を投入中、漏斗のシュート部に詰まりが生じ、入りが悪くなった。吸着処理剤を落下しやすくするため、真空ラインを開放した。この際、マンホールと漏斗の隙間から外部の空気が、窒素置換されていた処理槽内に浸入し、滞留していたエタノール蒸気と空気が混合し、可燃性混合気を形成しているところに、投入時に発生した静電気火花により引火し、発災したものと推定される。
空気流入で処理槽内が危険状態になることを十分認識していなかったのは問題であろう。
事象 化粧品用界面活性剤の製造装置で火災が起こった。処理槽にアルキルジメチルアミンオキシド(第4石油類)と変性エタノールを仕込み、さらに、過酸化水素を入れ混合させ、50℃に冷却させたのち、リン酸にて中和させた。その後、吸着処理剤のマグネシウム・アルミニウム酸化物をマンホールから金属製漏斗を用いて投入したところ、うまく入らないので、計器室からリモートコントロールでエジェクターを作動させ、吸引したところ、数秒後「バーン」という音とともに炎が約20cm上がり、作業員1名が火傷した。図2参照
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
物質 エタノール(ethanol)、図4
事故の種類 火災
経過 1998年3月24日14:35 作業員がマンホールより吸着処理剤1袋を投入したが、約半量(10kg)しか入らなかった。
14:40 残りのすべてを入れるため、計器室に連絡し吸着処理剤を吸引するよう依頼した。
 一方、連絡を受けた計器室ではエジェクター(真空装置)を動かし、処理槽への真空ラインのバルブを「開」にした。
14:50 バルブが開き、全量(20kg)が入ったので、漏斗より袋を持ち上げようとしたその瞬間、炎が上がり作業員が負傷した。
14:50 鎮火した。
14:50 計器室では爆発音が聞こえたため、バルブを「閉」に戻した。
14:54 事故を知り、駆けつけた自衛消防隊の救護班が負傷者の応急手当を実施するとともに消防機関へ通報した。
15:02 公設消防隊により救急搬送及び調査活動を開始した。
原因 処理槽のマンホールから、微粉体の吸着処理剤1袋を投入中、漏斗のシュート部に詰まりが生じ、入りが悪くなった。吸着処理剤を落下しやすくするため、真空ラインを開放した。この際、マンホールと漏斗の隙間から外部の空気が、窒素置換されていた処理槽内に浸入し、滞留していたエタノール蒸気と空気が混合し、可燃性混合気を形成した。投入時に発生した静電気火花により引火し、発災したものと推定される。
対処 計器室では爆発音が聞こえたため、真空ラインのバルブを「閉」に戻した。
対策 1.マンホールを開放した状態で、吸着剤の投与は行わない。(密閉系での仕込みを徹底する)
2.吸着剤は粉体ではなく、水スラリー状で仕込む。
3.吸着剤の仕込み温度設定条件を50℃から40℃以下に下げ溶剤蒸気の発生を極力抑える。
知識化 処理槽内に空気が流入すると可燃性混合気を形成する危険状態になるにもかかわらず、マンホールを開けた状態で真空ラインを開放したのが問題であり、空気流入は禁物という管理、教育が必要であった。
背景 1.空気を遮断した密封系での作業に、あえて空気を流入させている。安全管理の原則を無視した作業であろう。作業を黙認していたであろうこと、設備改善を行わなかったことを考えると、管理が十分ではないものと考えられる。
2.発災時はエジェクターを使用し、積極的に空気を流入させているが、通常時もマンホールを開けて作業していることでは基本的には同じであろう。窒素シールを連続的に行い、酸素濃度のチェックを確実に行わない限り、何時かは事故になると推測できる。対策欄に記されているようにスラリーを使用し、密閉系で作業できることを考えると、安全の軽視があったと思われる。
よもやま話 ☆ 事故が起こってから、スラリーの使用や、密閉系の維持の必要性が言われている。この程度の安全対策は平常時の改善運動でもできるはずである。
データベース登録の
動機
粉体投入時の静電気発生による火災の例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、作業管理不良、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、無知、知識不足、思い込み、計画・設計、計画不良、設計不良、不良行為、規則違反、安全規則違反、二次災害、損壊、火災、身体的被害、負傷、1名火傷
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例-平成10年(1999)、p.24、62-64
板倉文男、危険物事故事例セミナー-平成10年(1999)、p.21-36
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1998)
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例‐Case 100‐(1999)、p.12
負傷者数 1
物的被害 処理槽上部の配管保温材若干焼損,漏斗破損.
マルチメディアファイル 図2.処理槽図
図4.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/移送
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)