失敗事例

事例名称 高圧法ポリエチレン製造装置におけるO-リングの仕上げ不良による火災
代表図
事例発生日付 1973年10月13日
事例発生地 愛媛県 新居浜市
事例発生場所 化学工場
事例概要 運転開始から1時間後のポリエチレン製造装置の重合反応器の出口弁付近から大量のエチレンなどが漏れ火災が発生した。出口弁フランジシールのO-リングの表面仕上げが不良で、少量のガス漏れと燃焼があり、その熱でボルトの強度が落ち、限界に達したところでボルト破断、フランジから大量にガスが漏洩し、火災となった。
事象 高圧法ポリエチレン重合反応器をスタートして1時間後に、反応器出口弁フランジを締め付けるボルトが切損し、大量の可燃性ガスが漏れ、爆発音とともに着火、火災となった。火災発生後、緊急停止が行われた。
プロセス 製造
単位工程 設備保全
物質 エチレン(ethylene)、図3
事故の種類 漏洩、火災
経過 1973年10月13日 11:30頃 工事が終了し、ポリエチレンの重合を開始した。
12:25 ポリエチレン重合反応器の出口弁フランジを締め付けている締め付けボルトが切損し、大量の可燃性ガスが漏れ、爆発音とともに着火、大規模な火炎が約30mの高さまで黒煙とともに吹き上げた。
火災発生後、緊急停止が行われ、装置内の残ガスが約4分ほどで燃えつくした。
12:33 火災発生約8分後に完全鎮火した。
原因 重合反応器の出口フランジの締め付けボルト切損があり、高圧の未反応エチレンが大量に流出した。ボルト切損に先立ち、出口弁フランジのシール部のO-リング溝の表面仕上げ不良のため、ここから事故直前まで少量のガス漏れと燃焼が続いた。締め付けボルトが加熱され、強度が低下し、破断に至ったことが本事故の原因と推定される。O-リング溝の仕上げ面の精度が他のバルブの同じ部分と比較すると”粗”であった。着火からボルト破断までの時間については、約10~40分位と推定された。図2参照
対処 火災発生後、緊急停止が行われた。
知識化 初期漏洩からボルト破断、火災事故に至った出口弁シール部分は、漏洩防止の上で大変重要な箇所であり、今回のような表面仕上げ不良のような事態が発生しないよう十分な施工チェックが必要である。
背景 1.何故O-リングの表面仕上げが悪かったか(技能者の問題)、仕上げ状況の確認をしなかったあるいはできなかった(監督者の技能の問題)の何れかであろう。
2.高圧法ポリエチレンの重合は1500~3000気圧の超高圧で行われるので、運転開始前に実運転圧まで加圧して、シール部の漏れテストは実際的ではない。
よもやま話 ☆ 技能者の腕に頼むことの大きい部分であろう。熟練の技能を持った仕上げ工や配管工が老齢化し、後継者が少ないといわれているが、この様な事故はこれからも出るであろう。
☆ 高圧法(別名低密度)ポリエチレン装置の反応部は高圧で洩れた場合危険なので、厚いコンクリート製の塀で囲まれていることがある。その塀の中には運転中には入らないのが原則である。もし塀の中で洩れたら、事故になるか、ガス検知器が作動するまで発見出来ない。
データベース登録の
動機
ガス漏れ燃焼によりボルト強度が低下し事故に至った例
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、取扱い不適、価値観不良、安全意識不良、安全対策不良、使用、保守・修理、修復・検査、機能不全、ハード不良、O-リング洩れ、破損、破壊・損傷、ボルト破断、二次災害、損壊、漏洩・爆発、組織の損失、経済的損失、直接被害額600万円
情報源 高圧ガス保安協会、新居浜及び大分コンビナート保安調査報告書(1985)、p.50-51
被害金額 600万円
マルチメディアファイル 図2.事故発生要因図
図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)