失敗事例

事例名称 釜残として放置されていた2-クロロピリジン-N-オキシドの爆発
代表図
事例発生日付 1973年08月14日
事例発生地 神奈川県厚木市
事例発生場所 製造所
事例概要 2-クロロピリジン-N-オキシドの大量試製で、合成反応後に減圧蒸留を行い、蒸留釜残を放置した。翌朝爆発が起こった。物質の特性の把握の不十分と、蒸留装置の冷却不備で爆発が起こった。
事象 2-クロロピリジン-N-オキシドの大量試製を行った。2-クロロピリジンを過酸化水素で酸化した反応生成物を蒸留して、軽質の酢酸と水を塔頂より除去した。目的物の2-クロロピリジン-N-オキシドが主成分の釜残物を放置しておいたところ、爆発して火災となった。
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸発
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 2-クロロピリジン(2-chloropyridine)、図3
酢酸(acetic acid)、図4
過酸化水素(hydrogen peroxide)、図5
事故の種類 爆発・火災
経過 1. 内容積3kLの反応釜兼蒸留釜に、2-クロロピリジンを仕込んだ。溶剤に氷酢酸を用い、98%濃硫酸の存在下で35%の過酸化水素水により酸化した。
2. 反応生成物は、減圧蒸留により塔頂より酢酸と水分を除去した。目的物の2-クロロピリジン-N-オキシドはそれが主成分の釜残物としてそのまま放置した。
3. 翌朝になって、内容物が安全弁および割れた蒸留ラインの透視用ガラス管部から噴出し、何らかの着火源で引火して火災となった。
原因 1.釜のジャケットには蒸留後、水を張っていただけのため、冷却効果はないに等しい。そのため内容物の分解が徐々に進行し、分解熱の蓄積の結果、急速な分解反応となったものと推定される。
2.分解反応については、本物質が塩基性で塩酸塩を生じやすいことから、少なくとも初期の発熱過程は塩酸塩生成反応が主であったと考えられる。
知識化 1.反応器等のジャケットは流しつづけなければ、冷却も加熱も出来ない。
2.潜在危険性の大きな物質を扱う際には、危険性の把握や、事前評価が不可欠である。
背景 1.2-クロロピリジン-N-オキシドは、120~130℃で発熱分解が起こる不安定な物質であることが判明した。物性を知らないで取り扱っており、調査・実験などで予め調べておく必要がある。
2.ジャケットの容量はごく小さい。熱容量も小さいから直ぐ温度が上がる。それ以上に、ジャケット面の伝熱はジャケット側と管内側の物体が動いているとき有効に行われる。伝熱に関する基本がない。
データベース登録の
動機
物質の危険性に対する基礎知識の欠如により起こった事故例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、物性把握不十分、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、1名負傷
情報源 田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.48、62
労働省安全衛生部安全課、バッチプロセスの安全(1987)、p.50-51
負傷者数 1
物的被害 蒸留釜破損
マルチメディアファイル 図3.化学式
図4.化学式
図5.化学式
備考 クロロピリジン-N-オキシドの事故例では、反応後の減圧蒸留中に爆発したという報告もある。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)