失敗事例

事例名称 誤って仕切り板を取り付けた灯油タンクの変形
代表図
事例発生日付 1996年11月01日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 コーンルーフタンクのブリーザー弁の取り外し点検工事で、ブリーザー弁を取り外した後のタンク上部のフランジに通気管を取り付けずに、仕切り板を取り付けた。その状態で付帯のポンプを起動し、内溶液を移送した。液面が低下しても、それを補う空気他のガスの流入がないため、タンクが変形し、開口した。
事象 危険物第4類第2石油類の入った容量160klのコーンルーフタンクのブリーザー弁の点検工事の際に発生したタンク破損事故である。ブリーザー弁を取り外した後のノズルフランジに、U字型の通気管を取り付けるはずが、間違って仕切り板を取り付けた。そのためタンク残油をポンプで他タンクに移送したとき、当該のタンクが減圧になり、タンク側板および底板が変形した。
プロセス 貯蔵(液体)
物質 炭化水素合成樹脂製造装置反応塔からの未反応油(第4類第2石油類)
事故の種類 破裂(変形)
経過 1996年10月21日 工事検査課員が工事施工業者に、当該タンクのブリーザー弁の点検工事を口頭で発注した。
10月25日 工務検査課が施工業者に対して工事確認書により工事施工依頼をした。施工業者は当該事業所の製造課(設備管理と運転担当課)に工事着工の承認を得た。工務検査課は、現場で施工業者に対しブリーザー弁取り外し工事の段取り、安全管理などを指示した。
10月26日 施工業者はブリーザー弁の取り外し開始にあたり、前日手渡された工事確認書に工務検査課の押印を受けた。次ぎに製造課の着工確認の押印を受け、作業を開始した。作業者はブリーザー弁を取り外した後のフランジ部に、仕切り板を取り付けた。施工業者からブリーザー弁取り外し工事完了の報告を受けた製造課および工務検査課は、工事完了の現場確認を行わずに工事確認書の終了確認欄に押印し、工事完了とした。
11月1日 11:50 当該外からの移送作業を開始した。
 13:10 30kLの移送を終了した。
 13:30 他のタンクへの移送を開始した。
 14:30 タンクの変形を発見し、直ちに事務所に連絡した。移送ポンプを停止した。
図2参照
原因 工事作業者がコーンルーフタンクのブリーザー弁を取り外した後に、誤って仕切り板を装着した。当然タンクは気密状態になる。その状態で、ポンプで内溶液を外部に強制的に移送させ、タンクが減圧状態になった。
対処 仕切り板を取り外し、タンクの残液を他のタンクに移送した。
対策 1.工事方法の明確化を行った。一般工事仕様書にブリーザー弁を点検のため取り外した後は必ずベント管を取り付けることを明記した。さらに「ブリーザー弁点検取り外し工事計画書」を新たに作成した。仕切り板の誤った取扱を避けるため、「仕切り板管理要領」を定めた。
2.工務管理課および製造課の工事完了の現場確認を必ず行うことを徹底した。
3.施工業者、製造課および工務検査課に上記内容の教育を実施した。
知識化 1.コーンルーフタンクの圧力設計は内圧、外圧とも非常に低く、ほぼ”0”である。そのため僅かな減圧でも簡単に変形する。
2.形の上できちんとしたシステムを作っていても、効果が上がるかを決定するのは関係者の理解と、それを何時でも実行する努力である。
3.工事請負業者の作業者は、作業そのものは理解しているだろうがその結果が及ぼす影響などは理解していない。発注者側はこのことを認識し、必ず最終確認をおこなうべきである。
背景 1.ブリーザー弁を取り外したところに、本来取り付けるべきU字管型の通気管ではなく、仕切り板を取り付けた。工事内容が正確に伝達されていないことが最大の原因である。また、監督者から工事終了確認を求められ、現場確認をしないで押印した発注者の製造課員と工務検査課員の姿勢も、大いに問題であろう。 
2.工事元請け業者は、石油精製、化学工業関係では日本でも大手の工事会社で、発注者の事業所でも長く工事請負会社として作業している。そのために工事発注から現場確認まで両者に緊張感がなく、なれ合い状態になっていたのではないかと推測される。慣例としてブリーザー弁取り外し後に取り付けるベント管を手渡しで支給し、工事内容を指示をしていたが、発災に到った工事の時はこの部分が行われず、発注者による工事完了後の現場確認も行われていない。
3.推測だが、コーンルーフタンクの圧力設計が殆ど”0”であることを、発注者側、受注者側ともしっかりと意識してなかった可能性がある。工事の作業者にも、このことの教育はなされてなかった可能性が大きい。
よもやま話 ☆ 典型的なヒューマンエラーである。プラントのヒューマンエラーというと、すぐ行動災害を考えるが、決められたことが守られない、決められた内容が不十分と言ったのも人的災害である。ブリーザー弁付帯のフレームアレスター(火炎伝播防止するための金網)にペンキが塗られてタンクを潰すと同じ内容の例である。塗装工はある範囲を塗れと言われて塗るだけであるから、何の罪もない。塗ってはいけないところは、塗らせないように防御するのが、発注者や請負業者の仕事である。また、発災を起こした工事は、工事として、非常に簡単な工事に属するが、えてして、簡単な、単純なものは甘く見る傾向があると考えられる。これもその一つであろう。 
☆ 事故報告書によると、”ポンプを起動する前に十分な点検を行わなかった”とか”ポンプ運転前の点検を確実に行う”とある。この事故絡みで考えると、ブリザー弁まで点検しろと取れる。しかし、私の経験では、通常時のポンプ起動にここまでの点検はしない。ブリーザー弁周りで工事が行われた後の初めてのポンプ出荷や受入開始時に限定しないと、実施は長続きしないであろう。
データベース登録の
動機
常圧タンクを破損する古典的事故例の一つ
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、管理の緩み、価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、誤判断、状況に対する誤判断、計画・設計、計画不良、工事計画不良、使用、運転・使用、ラインアップミス、不良現象、機械現象、減圧、破損、大規模破損、タンク破断、組織の損失、経済的損失、直接損害額1000万円
情報源 川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1997)
物的被害 タンク本体変形損傷
被害金額 約1000万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)
マルチメディアファイル 図2.工事計画フロー図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)