失敗事例

事例名称 満杯表示ランプの点灯のあるタンクへの移送によるインク用ワニスの漏洩
代表図
事例発生日付 1994年04月28日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 新聞インク用ワニスの製造工場で、タンクへの移送を開始するにあたり、管理担当の作業員がタンク満杯の警報が点灯していたにもかかわらずに、許可をだした。作業担当者はタンクの在槽を確認しないで移送を開始した。そのためワニスはオーバーフローし、一部は海上に流出した。
事象 新聞用インク製造所で、粗原料の新聞インク用ワニスを遠心分離により精製し、その精製ワニスを移送したところ、移送先の中間貯蔵する建家2階に設置されたワニスタンクの上部マンホール隙間から、精製ワニスが漏洩した。さらに製造所屋上の通気管先端から噴出した。通気管先端から噴出したワニスの一部が屋上から雨樋、雨水配管を通り運河へ流出した。
プロセス 製造
単位工程 移送
単位工程フロー 図2.工程フロー図
物質 ワニス(varnish)
事故の種類 漏洩、環境汚染
経過 1994年4月27日16:00頃 当該のタンクVT-7の工程管理室の警報アラームがなり、満杯表示ランプが点灯した。タンクマンホールを開けて在槽を確認し、まだ受入可能と判断し、警報ブザーを止め、受入を続行した。
16:30頃 上流のタンクに仕込んだ1バッチ量を全てタンクVT-7へ移送し、作業を終了させた。このときVT-7 タンクの在槽量3,850Lであった。通常時の管理在槽量 3,800L、法定容量4,300Lである。
28日09:30頃 ワニス製造部員が工程管理室からVT-7 タンクへの移送の許可を受けた。
 この時ワニス製造部員はVT-7タンク在槽を確認しておらず、一方、許可を出した工程管理室作業員は満杯表示ランプを確認している。
10:20頃 上流のタンクのワニスをVT-7に移送を開始した。
11:15頃 製造部員がVT-7 タンク上部からワニスが漏洩しているのを発見した。
 ただちに移送を中止し、工程管理室に連絡した。
11:20頃 屋上の通気管からワニスが漏洩しているのを発見した。
原因 タンク在槽管理担当者が、当日の移送作業の開始前にタンク満杯表示ランプが点灯しているにもかかわらずに、当該タンクの移送許可を出した。製造担当者は移送先のタンクの在槽量を確かめずに移送し、オーバーフローさせた。
対処 移送を停止し、構内の屋上、雨水溝、溜めます等を油中和剤、ウエス、油吸着マットなどで清掃し、残留ワニスを雨水溝からひしゃくで汲み取った。海上流出ワニスの処理のためマリンサービスに出動要請をし、中和剤を散布した。さらに工場の排水口出口にオイルフェンスを展張した。
対策 1.運転管理方法を変更した。工程管理室とワニス製造作業担当者は毎朝作業前に打ち合わせをし、作業スケジュールの確認だけでなく、目視でタンク在槽、配管、機器の確認をする。
2.流出事故対策委員会を発足させ、事故の再発を防ぐとともに、従業員のモラルアップをはかる。
3.設備を改造した。該当タンクおよび同様なプロセスのタンク計9基について、タンクがハイレベルに到達したら送り込みのポンプがインターロックで自動停止するようにした。
知識化 1.建前は工程管理室で在槽確認の上での移送許可、製造担当者のタンク在槽の液量確認の二重チェックを行うようになっているが、各々が自己の責任を果たさず、確認作業をやってない。ダブルチェックにしても、個人が責任を果たさなければ、たんなる幻想にすぎない。
2.人間の注意力だけに頼っていると、時には事故を起こす。機械的に、計装的に対策を考えるべきである。
背景 1.人的要素として、運転マニュアルを遵守しなかったことが考えられる。当日の管理室担当者と製造担当者の行動はそのことの現れであろう。規律違反でもある。満タン表示ランプが点灯していても、さらに移送許可を出していることは、これ以前にも同様の移送許可があったものと推測できる。何のための警報か、そのときどう対処するかなど、マニュアルの持つ意味や警報時の対応などの教育訓練の不足があった可能性もある。
2.設備面では、タンクの液面表示が満杯表示ランプだけの警報だけで、適切な液面管理あるいはオーバーフロー防止設備がなかった。
よもやま話 ☆ 典型的な古典的事故だ。ダブルチェックを取っていても他人任せでは意味がない。
データベース登録の
動機
作業開始時の確認作業の重要さを示す例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、運営の硬直化、情報連絡不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、不注意、注意・用心不足、取扱不適、不良行為、規則違反、安全規則違反、計画・設計、計画不良、設計不良、二次災害、損壊、漏洩、二次災害、環境破壊、海上汚染
情報源 川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1994)
被害金額 約1万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)
社会への影響 約50リットルが運河へ流出。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)