失敗事例

事例名称 アースオーガ付き杭打ち機がボルトの疲労破壊で倒壊
代表図
事例発生日付 1993年11月
事例発生地 東京都
事例発生場所 建設現場
機器 アースオーガ付き杭打ち機
事例概要 建設工事現場において基礎杭を打設するためアースオーガ付き杭打ち機を用いて杭孔堀作業中、杭打ち機の上部旋回体と下部走行装置を接合しているボルトが破断し、杭打ち機が転倒したものである。
事象 建設現場において、大型杭打ち機に取り付けられたアースオーガと呼ばれるドリルを用いて直径620mm、長さ32mの杭孔堀作業を行い、所定の深さに到達後ドリルを逆回転させて引き抜いている際に,上部旋回体とアウターレースを接合しているボルト22本が全数破断し、杭打ち機の上部旋回体およびリーダ(マスト)が下部走行体と切り離されて転倒した。図1にアースオーガ付き杭打ち機を、図2に転倒状況を示す。
経過 この杭打ち機は拡張時クローラ全長4500mm、クローラシュー幅800mm、アウトリガ張り出し幅5060mm、クローラ全長5825mm、機体重量41.5ton、リーダ長さ27mである。
杭打ち機の下部走行体(キャリアフレーム)への上部旋回体(メインフレーム)の取り付けは、図3に示すように旋回ベアリングを仲介してボルト(M27X2)で締結されており、下部走行体はインナーレースに48本のボルトを7.5゜の等間隔で配置しているのに対して、上部旋回体ではアウターレースに合計22本のボルトで締結されており、下部走行体よりもボルトの本数が少なかった。上部走行体のアウターレース上のボルトの配置は、図4に示すように上部旋回体の前後に11本づつ8.182゜の間隔で置かれており、上部走行体の左右はアウターレースには締結されていなかった。なお,インナーレースのボルト円直径は1615mm、アウターレースでは1825mmである。
この杭打ち機は新製されてから10年9カ月経過しており、この間ボルトの交換は行われなかった。ほぼ同年代に製造された同じタイプの杭打ち機についてボルトの損傷を調べた結果、2機でボルトの折損が発見され、この内の1機は2本、他は3本が折損しており、折損位置は2機ともメインフレーム後部の同じ位置で生じていた。
原因 フォールトツリー解析結果を図5に、イベントツリー解析結果を図6に示す。
破断したボルトは呼び径が27mm,ピッチ2mm,ネジ部長さ60mm,有効断面積496mm2,強度区分10.9であってJISで示す最小引張り荷重は52,600kgf(最小破断応力106kgf/mm2)である。これらのボルトは、ワッシャを介して上部旋回体と旋回ベアリングとを締結していた。
ボルトの破断状況を調査した結果、メインフレーム後部側(カウンターウェイト側)のボルトは11本中6本が首下から、他の5本は首下から約67mm下のネジ部で破断していた。なお、ネジ部で破断したボルトであっても、首下にき裂の入ったボルトも存在していた。また、ネジ部から破断したボルトでは、いずれもワッシャの折損や欠落が見られたことから、ボルトが使用中にゆるんだ可能性が考えられる。これらのボルトは破断位置によらずいずれもビーチマークが形成されていたが、同時に3本のボルトを除きかなりの錆が付着しており、き裂がかなり以前に入っていたことを示唆している。メインフレーム前部側(オーガ側)のボルトはいずれもかなりの変形を伴ってネジ部から破断しており、しかも破面には錆は付着しておらず新生面が認められた。これらのボルトの状況から判断すると、杭打ち機が倒壊する直前には前部側(オーガ側)は11本のボルトで、後部側(カウンターウェイト側)は新生面を有していた3本のボルトで荷重を支えていたと推察される。図7に延性破壊した前部側ボルト2本と、疲労破壊した後部側ボルトの外観を示す。また、疲労破壊したボルトのマクロ破面を図8に示す。ビーチマークが残されているボルトについて、SEM観察を行った結果、破面がかなり損傷している箇所が多かったが、一部からはストライエーション(図9)が観察され、ボルトが疲労破壊したことが確認された。他のボルトでもストライエーションは観察されたがその間隔はかなり変動しており、またストライエーションとディンプルが混在している箇所も少なくないことから、ボルトにはかなり高い変動荷重が作用していたと推察される。なお、破面がかなりの錆やこすり傷で覆われていたため詳細な観察は困難であったが、首下破断したボルトにおいても観察した範囲では最終破壊部を除いてストライエーションが支配的であって、環境破壊で出現する粒界割れ等の形態は観察されなかった。ボルトが疲労破壊する場合、ボルト(オネジ)がナット(メネジ)とかみ合う最初のネジ底で発生する場合が多いが、本ボルトでは首下からの方の破断が多かった。これは首下の半径が1mmしかなく、しかも高強度材であるため切り欠き感度が高い等の理由によると考えられる。なお、首下部の応力集中係数をフィレットを持つ丸棒の実験結果を参考にして求めた結果、α=2.55が得られ、かなり高い応力集中が生じていることが判明した。
杭打ち機の転倒はボルトの疲労破壊が原因であったので、幾つかの仮定の下にボルトに加わる応力振幅を求めたところ、32MPaの応力振幅を受けていたと推定された。この値は強度区分10.9のボルトの疲労限度46MPaよりも小さく、したがってネジ部から疲労破壊する可能性は少ない。しかし、ネジ部からも疲労破壊したボルトも存在したが、これは使用中にワッシャが損傷したためにボルトの締め付け力が低下し、ネジ部が疲労破壊したものと推察される。疲労破壊したボルトの半数以上はボルト首下部を起点としていたが、原因は首下の曲率が小さかったためと考えられる。通常ボルト首下の曲率は0.1d~0.125dに採られており、したがってr=2.7mmが必要であったが、本ボルトはr=1mmであった。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、経験不足、製作、ハード製作、機械・機器の製造、杭打ち機、下部走行体、旋回ベアリング、ボルト、首下R加工不良、破損、破壊・損傷、疲労、応力集中、ボルト首下破断、使用、保守・修理、点検、点検不足、破損、大規模破損、杭打ち機倒壊
マルチメディアファイル 図1.アースオーガ付き杭打ち機
図2.杭打ち機の倒壊状況
図3.旋回ベアリングとボルトの締結状況
図4.ベアリング上の上部旋回体取付けボルトの配置
図5.杭打ち機の倒壊のフォールトツリー
図6.杭打ち機の倒壊のイベントツリー解析
図7.ボルト頭部のマクロ破面
図8.ボルトの破損状況
図9.ボルト破面のストライエーション
分野 材料
データ作成者 橘内 良雄 ((社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)