失敗事例

事例名称 汚染河海水による伝熱管の腐食
代表図
事例発生日付 1962年
事例発生地 日本 大阪府
事例発生場所 発電所
機器 復水器/伝熱管/アルミニウム黄銅/25.4mm,9m
事例概要 アルミニウム黄銅管は潰食に対する抵抗力が大きく、伝熱性がよいため復水器管として広く使用されていたが、河口の海水と河水の混合水を冷却水として使用している復水器において、伝熱管のアルミニウム黄銅管が進行の早い水質汚染に起因する異常腐食のため1年に0.5mm程度進行する腐食減肉を起こした。
事象 管の内面には付着物が厚く付着している。付着物下層部にはSが3~5%含まれていた。付着物を取り除くと凹凸が連続した腐食が管全域に起きていた。このような腐食状況はそれまでに経験してきた腐食とは様相が異なっている。水質は海水の混合度合いは60~80%で海水に近い。溶存酸素量が極度に少なく、塩素注入量が多く、アンモニア成分はかなり多く季節的変動は少なく上流からの排水の影響が高い。硫黄分は多くはないがほとんどな場合に検出される。硫酸塩還元バクテリアの存在が確認された。無機的な汚染物の量が非常に多く、工場廃水による水の汚染が大きい。夏季の腐食進行することが確かめられたが汚染成分と腐食との間の明確な関連が認められていない。
原因 都市排水によって極度に汚染された河口水を使用していたため、この汚染水による特徴的な苛酷な腐食を起こした。管内付着物から夏にはCuとSが多く検出されており、夏季には有機物の腐敗が盛んになってため嫌気性の硫酸塩還元バクテリアの繁殖がすすみ、このバクテリアによる腐食及び海水混合度が高いことが腐食原動力となっている。すなわち汚染された海水混合の河口水の使用により冷却水の汚染が進み、また夏にはとりわけ嫌気性の硫酸塩還元バクテリアが管内で繁殖し腐食の原因になっていること及び海水混合度が高いことが腐食原動力となって異常な腐食が起きた。
対策 アルミニウム黄銅管、キュプロニッケルなどの銅合金はいずれも耐食性が不十分で他の耐食材料が必要である。近年は海水汚染も改善されてきており、またチタンなどの耐食材料も普及してきている。
知識化 選定した材料の腐食損傷メカニズムへの理解。水質汚染による冷却水の水質変化によっては予期しない腐食損傷をもたらすリスクが大であること。環境汚染に関する意識改善の普及により汚染要因が少なくなってきているがこのような事例のあることを忘れてはいけない。
背景 大阪だけでなく東京、名古屋でも同様な水質汚染による腐食の増大が問題となっている。
後日談 このような腐食の事例が契機となって汚染海水による伝熱管の腐食対策、耐食材料の研究が進められた。
よもやま話 環境汚染に関する意識改善の普及により汚染要因が少なくなってきているがこのような事例のあることを忘れてはいけない。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、過去情報不足、経験不足、思いこみ、製作、ハード製作、機械・機器の製造、使用、運転・使用、機器・物質の使用、機能不全、ハード不良、機器使用不能、破損、減肉、腐食・酸化
情報源 防食技術、山本昇三、11, 261, (1962)
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 伝熱管の取り替え
備考 伝熱管は一般に薄肉のため、腐食による漏洩が原因で製品側の汚染が起きやすい。
分野 材料
データ作成者 橋本 哲之祐 (元千代田化工建設(株))
小林 英男 (東京工業大学)