失敗事例

事例名称 過充填容器からのLPガス放出による充填所爆発
代表図
事例発生日付 1986年05月17日
事例発生地 三重県四日市市采女町春雨3201番地の1
事例発生場所 LPガス充填所
機器 LPガス容器,横置きタンク
事例概要 1986年5月17日、四日市市のLPガス充填所で20キロ容器にガスを充填したところ、過充填となり、バルブを開けてガスを放出した。放出したガスに着火して、火災が発生した。周辺の容器が加熱され、安全弁からガスが噴出し、充填所全体にわたる火災となった。このために、大小の容器が次々に破裂し、プロパン横置タンクとブタン横置タンクも炎上し、充填所の爆発に至った。本事例は、事故拡大防止対策の重要性を示した。
事象 LP(液化石油)ガス充填所で従業員が充填機を使って20キロ及び50キロ容器(図2参照)にガスを充填していたところ、20キロ容器が計量器に正しくセットされていないことに気付き、確認したところ過充填であった。過充填容器を充填機の近くで横に倒し、バルブ(図3参照)を開けて液状のガスを直接放出したところ、着火して火災が発生した。火災発生当初は範囲も限定されていたが、着火した後も容器バルブが閉められなかったため、周辺の容器が加熱され、周辺の容器の安全弁からガスが噴出し、充填所全体にわたる火災となった(図4参照)。このため20キロ、50キロ、500キロ容器が次々に破裂し、充填所内に設置されていた20トンプロパン横置タンク1基と15トンブタン横置タンク1基も火炎を噴き出した。着火源は、過充填容器から放出されたガスが静電気を帯び、周囲に林立する容器等の導電体との間で発生した火花である。本事例は事故拡大防止対策の重要性を示すとともに、多くの教訓を与えた。
フォールトツリー解析の結果を以下に示す。
○ 図5 破壊形態,破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
最初に起きた火災は、過充填容器から液状のLPガスを放出した直後に着火して発生した。着火の原因は、放出されたLPガスが静電気を帯び、周囲に林立するボンベなどの導電体との間で発生した火花である。狭いノズルから勢いよく放出されたガスは静電気を帯び、他の導電体との間で火花を起こす。
火災は当初、容器から噴出するLPガスの燃焼に留まっていたが、着火後も容器のバルブが閉められなかったため、火炎により周囲の小容器の圧力が上昇し、安全弁が作動した。このため、噴出したLPガスにより火勢が増し、充填所全体にわたる火災となった。この際、一部の容器は、他の容器の安全弁から噴出されるLPガスの火炎に直接加熱される状況となったため、容器が破裂し、その一部が飛散するに至ったものと考えられる。
さらに、500キロ容器の充填プラットホームに並べてあった500キロ容器も、小容器と同様に安全弁が作動し、LPガスが噴出、燃焼したが、その際の火炎が他の500キロ容器の鏡板部を強烈に加熱する結果となり、容器が破裂し、その容器の一部が飛散するに至ったものと考えられる。これらの容器の破裂により、直径約50m、高さ約63mの巨大なファイヤーボールが出現した。
また、充填所内には20トンプロパン横置タンク1基と15トンブタン横置タンク1基が設置されていたが、火災によってタンクの放出管に設置されている止め弁のバルブシートが焼失したため、ガスが噴出し、燃焼した。
イベントツリー解析の結果を以下に示す。
○ 図6 充填所爆発のイベントツリー図
過充填容器から、LPガスを液状のまま放出したために、LPガスが帯電し、周囲の導電体との間で火花が発生、着火した。着火後も容器のバルブが閉止されなかったため、周辺にあった容器の安全弁が作動し、火災が拡大した。この火災によって、容器の一部は破裂し、タンクのバルブシートが焼失したためにタンクからもガスが噴出、燃焼した。
経過 充填所の作業員が容器に充填するため、No.1充填機を用い、20キロ容器に充填を始めるとともに、No.2充填機を用いて50キロ容器に充填するためにセットを行っていた。しかし、他の作業員がNo.1充填機を見たところ20キロ容器が計量器に正しくセットされていないことに気づいたため、充填中の20キロ容器を取り外しチェックしたところ過充填であることを確認したので、過充填容器を少し移動し、別の20キロ容器を充填機にセットした。
作業員は、過充填を行った20キロ容器をNo.1充填機の近辺で横に倒し、バルブを開け、液状のLPガスの放出を開始(当時は一般的に行われていた作業)した直後、着火して火災が発生した。また、このとき保安統括者及び保安係員は不在であった。
火災発生から2分後に119番通報し、その5分後には消防車が到着した。消防車が到着したとき、充填プラットホームにおいてある容器のうち、充填機周辺の容器が燃えており、充填プラットホーム上の外縁の容器は燃えていなかった。しかし、消防車の到着から約5分後から火勢が強くなり、その3分後には爆発が数回発生した。また、このときにタンクのガス放出管のバルブシートが焼失し、ガスに着火した。
原因 (1)過充填容器の誤った処理
過充填容器から過充填ガスを処理する方法として、以下の3つの方法がある。
○過充填容器から気化したガスをガスコンプレッサーを用いてストレージタンクに回収する。
○他の容器に移充填して回収する。
○放出拡散によって廃棄する(火気を取扱う場所または引火性・発火性のものを貯蔵した場所から8m以上離れた通風のよい場所において少量ずつ大気中に放出する)。
事故が起きた充填所では、充填機の近辺において容器から大量のガスを液状のままで直接大気に放出していたと推測される。過充填した場合の処理方法について、具体的な作業マニュアルを定めておらず、対処が不十分であった。
(2)事故拡大防止対策の不備
最初に火災が起きた過充填容器のバルブを直ちに閉じていれば、充填所全体にわたる火災には拡大しなかった。その他にも、ストレージタンクの緊急遮断弁が操作された形跡はなく、散水設備は操作を試みたにもかかわらず、作動しなかった。以上のことより、事故を起こした充填所では保安意識が低く、災害事故を想定した教育訓練も不十分であった。
対処 充填所火災で最も重要なのは初期消火である。充填所における初期消火では火源となるガスの噴出、漏洩を止めることが非常に有効であり、そのためには元弁を閉める必要がある。火炎は通常、一定の方向と大きさを保っているので、元弁に接近して閉止できることが多い。また、事故拡大防止対策として散水設備、緊急遮断弁を作動させることも重要である。
本事故では、最初に火災が起きた容器の元弁を閉じずに、緊急遮断弁の操作も行わなかった上に、散水設備は日頃のメンテナンスが不十分だったために作動しなかった。このことから、事故が起きた際に上記のような対処を行うためには、日頃の訓練、防災設備のメンテナンスが重要であることがわかる。
対策 本事故を契機として省令補完基準(昭和62年6月22日)が、下記のように改正された。
(1)緊急遮断装置、水噴霧装置等の操作位置を2箇所以上とし、1箇所は事務所内等に設置する。
(2)充填プラットホーム、タンクローリ停車位置にも散水設備等を設ける。
(3)散水設備等のポンプ保安電力を強化する。
(4)容器からの液状ガスの放出による廃棄を禁止する。
知識化 ・防災訓練に手を抜くな
本事故は事故拡大防止対策の重要性を示唆する非常に顕著な例である。適切な事故拡大防止対策を行うためには、日頃の訓練、防災設備のメンテナンスが欠かせない。しかし、防災訓練が全く緊張感のない形式的なもので、実際に事故に直面したときに適切な行動が取れないといった役に立たないものでは、訓練を行う意味がない。危険物を取り扱う技術者は、今一度防災訓練の意義を考え、定期的に防災訓練を行うべきである。
よもやま話 ○ ファイヤーボール(Fireball)
ファイヤーボールは、屋外の大空間での巨大な爆発の際に発生する。これは、爆発のときの様相が大気中に巨大な球状火炎を形成することから、外観的名称として名付けられた。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、過充填、組織運営不良、管理不良、マニュアル不良、実地訓練不十分、訓練の形骸化、使用、廃棄、液状LPガス放出、不良現象、化学現象、LPガス帯電、火花放電、着火、火災、非定常行為、無為、容器バルブ閉止せず、ガス噴出、破損、破壊・損傷、容器破裂、火災、二次災害、損壊、充填所爆発
情報源 LPガス製造事業所事故対策検討委員会報告書(昭和61年9月)通商産業省立地公害局
死者数 0
負傷者数 3
物的被害 当該充填所,付近の住宅の窓ガラス等
被害金額 不明
全経済損失 不明
マルチメディアファイル 図2.LPガス容器
図3.LPガス容器用バルブ
図4.過充填ガスの放出位置(想像図)
図5.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
図6.充填所爆発のイベントツリー図
備考 WLP関連教材
・化学プロセスの安全/化学プロセス安全の概論
分野 材料
データ作成者 赤塚 広隆 (高圧ガス保安協会)
小林 英男 (東京工業大学)