失敗事例

事例名称 ラベル表示ミスによる火災からA社航空機が墜落し、110名が死亡
代表図
事例発生日付 1996年05月11日
事例発生地 米国フロリダ、エヴァーグレーズ湿地帯
事例発生場所 湿地帯
事例概要 1996年5月11日午後2時13分、フロリダ州マイアミからジョージア州アトランタに向かっていたA社航空A便(B社製B型機)が、離陸10分後、火災のため空港から19Kmのエヴァーグレーズ湿地帯に墜落した。この事故で運航乗務員2名、客室乗務員3名、乗客105名、計110名全員が死亡した。酸素発生装置(酸素ボンベ)のラベル表示ミスが原因で火災が発生し、同機は高度10000フィートから地上まで一気に落下した。墜落現場一帯は沼地であったため、残骸等は完全に水没し、墜落現場の確認に日数を要した。ラベル表示ミスは下請けの整備会社C社によるものだが、A社航空の大惨事は当社のコスト削減による安全確認およびメンテナンス不備から、起こるべくして起こった事故だと言われている。
事象 1996年5月11日、マイアミ発アトランタ行きA社航空A便は、離陸直後、誤って搭載されていた酸素発生装置が発熱したことにより火災が発生した。同機は飛行のコントロールを失い、離陸10分後にフロリダのエヴァーグレーズ湿地帯に高度10000フィートから一気に墜落した。A社航空では可燃性物質の搭載を基本的に禁じているが、144本の酸素発生装置は空ではないのに「空」だという誤ったラベルが添付され、搭載されてしまった。
経過 1996年5月11日、マイアミ発アトランタ行きA社航空A便は、前部貨物室に誤って積載されていた酸素発生装置(144本積載)が、何らかのショックで作動し発熱して火災が発生した。同機は貨物室に煙検知器を搭載していなかったため、火災の発見が遅れた。火災は飛行機の舵取り制御ケーブルを焼き付けたため、パイロットは舵をとることができず、マイアミ空港まで数分たらずの距離にもかかわらず、引き返すことができなかった。ボイスレコーダーには、乗客の「火の海だ」という声が録音されており、実際、機内の気温は華氏3000度に達したとされる。事故機は、運航乗務員のいずれかが操縦桿の上に倒れたために、高度10000フィートから地上まで一気に落下した。酸素発生装置は、A社航空の下請けの整備会社C社がほかの機体から取り外したものであり、整備会社は、本来ならば直ちに廃棄しなければならないものを廃棄せず、安全のため取り付けなければならない安全キャップ(価格は僅か1個1セント以下、プラスチック製)を取り付けることもしなかった。なお、A社との契約では、安全キャップはA社側が用意すべきものであった。さらに、同社は社内の連絡ミスにより、これらの、未使用酸素発生装置を使用済みで空だという誤った表示を添付して事故機に積載した。
原因 直接の原因は、下請けの整備会社C社による酸素発生装置のラベル表示ミス。C社の整備員は、空のラベル表示を見ただけで、装置の安全ピンがはずいれていたのに中味を確認しなかった。にもかかわらずA社航空従業員に口頭で「空だった」と報告。確認を怠ったA社航空にも非がある。貨物室に煙検知器が搭載されていなかったことも大きな要因のひとつ。また、監督者であるべき連邦航空局が、業界の「パートナー」としてA社など新規会社の支援を優先、厳しい安全監視をしていなかった。こうした連邦航空局の安全より企業利益最優先の考えが、A社A便を炎上爆発させる結末に至った。過去3年間にA社の航空法違反件数は34を超え、人命に関わるトラブルも続発していた。連邦航空局はA社が大惨事を起こすのは時間の問題であることを随分前から知っていたが、安全よりも航空業界との癒着を優先することで、その事実をひたすらに隠し通していた、と運輸省監察総監 A氏は内情を暴露。
対処 捜索隊が墜落現場を捜索したが、こなごなに砕けた機体の破片はエヴァーグレーズ湿地帯の泥沼に埋まってしまい、57トンの機体墜落原因を究明するための証拠を見つけるのは困難だった。ダイバーを雇い、生存者を捜索したが、生存者捜索は1日で締め切られ、後は物的証拠と遺体回収に割り当てられた。
対策 整備会社C社の有罪。A社航空も起訴された。連邦航空局の組織改革が行われ、B連邦航空局長を辞任、C次長を辞職させるに至った。第104回連邦議会で航空法の中から「民間航空業界の育成」を撤廃して「安全管理(航空規制)」に徹する抜本的改革を行う。また、クリントン大統領は1996年7月に全空港の爆発物検知機の設置と警備体制強化を発表し、ゴア副大統領を長とするホワイトハウス航空安全セキュリティ委員会を発足させた。
知識化 航空機事故の場合、事故が起きてからでは救済が間に合わないケースが多い。そのため、何重にもわたる事前チェックは必須。整備士によるダブルチェック、また老朽化に対しても航空会社はメンテナンス・チェックを入念に行う必要がある。
背景 直接の原因は下請けの整備会社C社による酸素発生装置のラベル表示ミスだが、ほかにも貨物室の煙検知器の無搭載、安全確認およびメンテナンス・チェックの甘さ、コスト削減、老朽化機体の使用、連邦航空局との癒着などの要因が合わさり今回の事故につながった。また、米国では1978年に航空の規制が撤廃され、運賃やサービスが自由競争となった。新規参入や値引き競争が熾烈になり、航空各社はコストを切り詰めるため古い航空機を買い、整備費用を下げるなど安全面を犠牲にした。その結果、格安運賃を売り物にした新規会社のA社航空が1996年から1997年にかけて連続事故を起こした。さらに監督者であるべき連邦航空局は、A社など新規会社の支援を優先、厳しい安全監視をしていなかった。国家運輸安全委員会は「連邦航空局はA社の墜落事故の一因をなしており、連邦航空局に責任がある事故の死傷者数は1000人を優に超えている」と報告書の中で非難。一方、連邦航空局側は、「もし国民に情報を漏らしてしまったら航空機を利用しなくなり航空事業は大損失となる」と、利益の減少を恐れていた。
後日談 A社航空は1997年9月に新興企業のD社航空と合併して社名を変えている。
よもやま話 運輸省監察総監 A氏は、綿密な捜査活動によって連邦航空局を組織改革させるに至るまでの経緯を記した書籍「Flying Blind, Flying Safe(危ない飛行機が今日も飛んでいる)」を発表。A社航空事故の発生後、「私は怖くて乗れないわ」という名セリフを残して当時の職を辞任。
当事者ヒアリング 乗客達の叫び声「火事だ!火事だ!火事だ!」。客室乗務員の声「火の海だ」。機長の失望の声「もう何もかもおしまいだ」(出典 ボイスレコーダー)
データベース登録の
動機
利益追求主義およびずさんな安全管理が浮き彫りにされた事故だから選択した。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、企画者不注意、計算間違い、手順の不遵守、手順無視、操作手順無視、使用、運転・使用、非定常操作、緊急操作、進路変更、機能不全、ハード不良、機械・装置、破損、大規模破損、衝突、身体的被害、死亡
情報源 http://www.uoguelph.ca/~gjorden/
http://www.ganet97.com/monthlynews/back1299/flightsafety.htm
死者数 110
負傷者数 0
物的被害 機体、乗客および乗員の貴金属、持ち物など数々の物品。
社会への影響 A氏の著書により、政府が国民に必要な情報を隠していたことがわかり、人々は大きなショックを受けた。航空運賃は安ければいい、というものではないことがわかった。
分野 機械
データ作成者 エツタイノ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)