失敗事例

事例名称 ヒータの熱で搬送コンベアのハウジングが崩壊
代表図
事例発生場所 製鉄所
事例概要 溶鉱炉の搬送コンベアを設計・製作した。コンベアの稼動開始後しばらくしてハウジングが破壊し、最後はコンベア自体が崩壊した。図2のように、ハウジングの軽量化のため、嵩比重が0.5と軽いバーミキュライト質のキャスタブル耐火材を選定した。ところがヒーターの熱で、バインダの一つであるポルトランドセメントが液相化しするとともに、もう一つのバインダであるアルミナセメントが無水反応し強度が劣化した。その結果、ハウジングの破壊となった。対策として、図3のように、焼成煉瓦と断熱ボードでハウジングを構成した。
事象 溶鉱炉の搬送コンベアの稼動開始後しばらくしてハウジングが破壊し、最後はコンベア自体が崩壊した。ハウジングのヒータ付近でポルトランドセメント部に液相化、アルミナセメントに無水反応が見られて強度が低下していた。
経過 溶鉱炉の搬送コンベアを設計・製作した。ハウジングの軽量化のため、嵩比重が0.5と軽いバーミキュライト質のキャスタブル耐火材を選定した。バーミキュライトとは雲母系の原鉱石を高熱で焼成・膨張させた人工用土である。この骨材の中にバインダ(糊)として、セメント(ポルトランドおよびアルミナセメント)を混合した耐火材である。コンベアの稼動開始後しばらくしてハウジングが破壊し、最後にはコンベア自体が崩壊した。調査したところハウジングのヒータ付近でポルトランドセメント部に液相化、アルミナセメント部に無水反応が見られ、強度が著しく低下していた。
原因 雰囲気温度が800℃を超えていたので、バインダのポルトランドセメントのカルシウムシリケート(CaO・SiO2)が液相化するとともに、もう一方のバインダであるアルミナセメントが、無水アルミン酸カルシウムを生成し、強度が著しく低下した。(完全にアルミナとして焼結する温度までは、強度が低下し割れの原因となる。
対策 図3のように、ハウジングを焼成煉瓦と断熱ボードで構成した。
知識化 キャスタブルは嵩比重は小さいが、Fe203、CaOなどのバインダを多く含み液相を生成しやすく、高温絶縁性・高温強度・発熱体との反応などの問題があり、ヒータ支持材として適切ではない。雰囲気温度が700℃を超える加熱炉では、炉床にキャスタブルは使用するが、ヒータ支持部が局所的に高温になる場合は、焼成煉瓦を使用する。一般にヒータ支持材や断熱炉材の選定は、耐火性、強度、断熱性、絶縁性、施工性、コスト等を考慮する。高温強度と断熱特性・嵩比重とは相反するので、使用部位に応じて材料を選定する。
背景 セラミクスはAl203、SiO2、SiC、Si3N4、ZrO2、TiC、WCなど、それだけで構成されると耐熱性も硬度も非常に高くなる。しかし、素形材を作ってから削ると硬いため、バインダを混ぜて”豆餅(まめもち)”のようなグリーン(なまという意味)を用いて欲しい形状に近いものを作る。その後で熱処理して”餅”にあたるバインダを飛ばし、セラミクス同士焼結させて”豆”だけの”雷おこし”のようなものを作る。本事例のようにバインダを除去せずに用いると、思わぬ失敗をする。
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、自作・購入の誤判断、環境変化への対応不良、使用環境変化、予期せぬ使用環境、不良現象、機械現象、熱、高温、液化、不良現象、化学現象、物質間反応、材料的要因、材料強度不足、割れ発生・成長、破断、不良現象、機械現象、機械的連鎖反応、崩壊
情報源 創造設計エンジンDB
マルチメディアファイル 図2.炉床の煉瓦が崩壊した
図3.炉床の煉瓦を崩壊させない
分野 機械
データ作成者 張田吉昭 (有限会社フローネット)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)